老化防止薬よりすごい超エステマシーン
ミカエルは太陽系連合に来るまでの出来事を話し終えると静かに息をついた。
その姿を見たサバーブは得心がいったように頷く。
「なるほど、帝国の首都星出身か……。だから太陽系出身になっていたんだな。」
「そうだ。なんでもイラメカ出身の自分が差別的なことを受けないようにという配慮らしい。」
太陽系連合では一時期、イラメカ出身者が職場などで差別的な扱いを受けることがあった。それを防ぐという名目でイラメカ出身者の出自を太陽系としたのだ。
リランドは座席の背もたれに体をあずけると頭の後ろに手を組み座席を揺らす。
「だが、太陽系出身者なのに鉱山での労働の話が出るとイラメカ出身だとわかるよな。」
「それが役所仕事というやつだろう。ワシもそれで盥回しにされたことがあるぞ。」
連宋は再就職の時に何故か役所の窓口を盥回しにされた様だ。太陽系連合の役所についての罵詈雑言が次から次へと飛び出す。よほど嫌な目にあったのだろう。
その連宋を横目にリランドは座席にもたれかかっていた体を起こした。
「しかし、イラメカ出身なのによくこの船が買えたな……。俺たちでも退職金を持ち寄ってやっとなんだが……。」
「それに関しては二つの理由がある。一つは未払いの賃金を払われた事。もう一つは戦後復興補助金だ。」
ミカエルによると未払いの賃金は連合の相場に照らし合わせて二十年分が支払われた。それでもかなりの金額だったのだが、それを上回る金額の戦後復興補助金が支払われたらしい。
「あー、そうか、補助金か。たしか補助金によってメルセス製の宇宙ヨットを買ったという話もあるぐらいだ。そのぐらいの額になるか。」
「それは本当か、サバーブ!?補助金でヨットか……確か問題になったと聞いたことがある。それでどうなったんだ?」
「ウヤムヤのまま立ち消えになったぞ。」
「立ち消え……わしが思うにそれは政府の怠慢だな。」
「そうだな。俺もそう思う。」
サバーブ、リランド、連宋の三人は口々に政府批判を言い合っていた。
しかし、本気で政府批判をしているのではない。ただ単にミカエルの言ったことから意識をそらしているにすぎない。
そう、彼らは明らかに浮足立っていた。
異星人の遺跡についてミカエルは細胞を修復し活性化させるカプセルがありそれが目的だと言っていた。
細胞を活性化させると言っているが話の内容から推測するとカプセルは若返りの機械だと言う事なのだ。
老化防止薬はあくまで老化を遅くすだけであり、老化しないわけでは無い。しかし、異星人の遺跡にあるカプセルは老化防止どころか若返るのである。この事は老化防止薬を使っていたサバーブにさえ無視できない。
「しかし異星人の遺跡に細胞を活性化するカプセルね。これは超エステマシンと言うべきだろうか?」
「そうだな、サバーブ。でも誰が使うかは運だな。俺だけが使っても恨むなよ?」
サバーブとリランドとの会話にミカエルが割って入る。
「数なら大丈夫だ。自分を含めて十分な数があると考えられる。その為に各自の部屋に自動調理器とバス・トイレを完備しているのだよ。」
その一言により三人の歓声が上がる。
サバーブ達はこの仕事を受けた当初は太陽系出身のお金持ちの道楽。現役を引退した爺さんが道楽で遺跡探索に乗り出したと思っていた。
しかし実際は道楽ではない遺跡の位置も目星はついている本格的な遺跡探索だ。そして遺跡から受ける恩恵も人数分考えられている。
この事実によってサバーブ達三人が浮足立つのも無理もないことなのだ。
「と、言う事は俺たちも……。出来なかったあんなことやこんなことが……。」
「そ、そうだな、リランド。そうなれば街に繰り出して……。」
「わしも!わしも!」
カプセルを使った後の事について思い思いの事を話し始めた。大方が“年齢で出来なかったことが出来るようになる。“と言う内容であった。
そんな声が上がる中、連宋が何かを気付いた。
「……なぁ、異星人のカプセルは数万年前の物だろ?動くのか?と言うより劣化しているのでは?どう考えるサバーブ?」
「……劣化か……どうなのですか?ミカエルさん?」
「それは大丈夫だ。自分たちが見つけたものは惑星上であり数万年間地中に埋まっていた物、にもかかわらず動いた。空気の無い宇宙では劣化が少ない。目標の場所は宇宙空間にあり、エネルギーが放出されることから動力も生きている。カプセルがあれば間違いなく動くだろう。」
胸を叩いてミカエルは答える。
「つまり目標は……。」
ミカエルは質問を行ったサバーブに同意するように頷いた。
「エネルギー放出が確認される場所。銀河外周部の暗黒空間だ。」




