重力子砲
流彗星号が遺跡宇宙船である疑惑が浮かび上がる。
基本的に連合では個人が遺跡関係の者を所有していても問題は無い。そもそもまともに動く異星人関係の遺跡は無かったからだ。
しかし、目の前の船は十全と動いている。
流彗星号は登録上民間船である。その為、技術者連中は面と向かって調査したいと言い出しにくい様だ。うっかり調べたいと言おう物なら軍事系列会社の横暴ともとられかねない。今は精々船をスキャンするぐらいしか出来ないのが現状だ。
詳しく調べたいのをぐっと堪える事しかリバーヘッド重工の技術者達には出来なかった。
そんなリバーヘッド重工の技術者達が流彗星号に疑惑の目を向ける中、流彗星号はダイアフォース重工での視察へ向けて準備を行っていた。
準備の最中でもリランドは意気消沈したままだった。そんなリランドを見かねたのかサバーブが声を掛ける。
「リランド、お前あれがそんなに残念だったのか?」
「おいおいサバーブあれがと言うが……なあ連宋?」
流彗星号の航路案内の為に端末を操作していた連宋の手が止まる。
「あの“なんちゃってグラビトン“の事か?それとも”グラビティブラストもどき“と言うべきか?」
「“なんちゃって”に“もどき”か……確かにそうだよな。あれは似ても似つかぬ物だ。」
連宋とリランドはお互い顔を見合わせ頷きあっているがサバーブには全く判らない。
「ん?なんだ?その“なんちゃって”とか“もどき”とか言う奴は?」
「ああ、昔、連宋に見せられた“オールドデーター”にあった想像上の兵器だ。どれも一撃で相手を倒す凄い威力の攻撃だった。」
「凄い威力か……確かにあの重力砲はそれを再現しているな。」
「だろう?だけど射程距離を聞いて愕然とした訳よ。五kmじゃ死んでこいと言っている様な物だぞ?それに五kmじゃ改善されも距離に期待が持てないぞ。」
「うむ、言われてみればそれは確かにそうだな。」
今度はリランドとサバーブがお互いに納得顔を浮かべていると流彗星号のメインモニターにシルビィの顔が映し出される。
「リランドはそんな事で落ち込んでいたのですが……。」
「……そんな事と言ってもなぁ、ビィ……。」
「一つ良い事を教えましょう。あの重力子砲は未完成ですが、完成された重力子砲の射程は百万kmです。」
「百万!本当か!」
「ええ、あなた方が言う異星人が使っていた重力子砲の射程は地球人の単位に換算して百万km。間違い有りません。」
「そ、そうか。それならいつかは……。」
「まぁ、あの様子なら射程が一万kmになるのはずっと先でしょうが……。」
「ええ!そんな殺生な……いや待てよ、射程が百万kmまで伸ばせると言えば……。」
リランドの言葉を聞いたシルビィは冷徹に疑問を投げかける。
「百万kmの根拠は?」
「う……無理か……。」
「まぁ、気長に待つ事ですね……おや?連宋、アンダーゲート星系から長距離の緊急通信が入っていますよ?」
「アンダーゲートから?防衛艦の視察予定の星系だが何だろう?」
連宋が慌てて通信をメインモニターに繋げた。
メインモニターに映っていたシルビィの姿は消え代わりに小太りの男がメインスクリーンに現れた。
「おお、繋がった。……コホン。すまない。私はダイアフォース重工の取締役であるサワイズミ。申し訳ないがこの度の防衛艦の視察だが中止して欲しいのだ。」
サワイズミの要望にサバーブは尋ね返した。
「中止?」
「うむ、ここだけの話なのだが某国との間で戦争の気運が高まりつつあるのだ。その為、我々としては連合軍向けの艦船製造に注力しなくてはならない。ついては……。」
「某国との間での戦争か……十中八九……。そちらの事情は判りました。我々はこう見えても元軍人です。あなた方の事情は理解できる。」
「おお、それでは。」
「そうですね。残念ながら今回の視察は縁が無かったという事で……。」
「そうか、そうか、ありがとう。ありがとう」
サワイズミはモニターが切れるまでの間、何度も頭を下げ、礼を言った。サバーブは通信用のモニターが切れると深々と操縦席に腰を下ろした。
「戦争状態か……エキドナ星系方面では話を聞いた事が無かったから今回は別方向からだな。だがしかし……連宋、本社へ帰投する。ナビゲートを頼む。」
「了解!」
(とりあえずは急いで本社に戻りそれからだな……。)
だが、事態はサバーブが考えているよりも早く進んでいた。




