疑惑の目
”有効射程五km。”
そう聞いたリランドはあからさまにがっかりした表情になり肩を落とした。期待していた分落胆も大きいのだろう。
視察した新型砲は威力に対しては申し分ない。(と言うよりこれ以上の威力は今のところ考えられない。)
しかし、有効射程距離があまりにも短すぎる。
宇宙船同士の戦闘は遠距離での砲撃戦であり主な射程は百万km前後。狙撃の場合は三百万km、接近戦と言われる砲撃戦でも最低十万kmであった。
それに対して有効射程距離五kmという距離はあまりにも短い。全く話にならないレベルの距離なのだ。
あからさまにリランドは落胆しているが案内役であるブリッジは言葉を続ける。
「あまりの射程の短さに落胆されておられますが、この新型砲の開発は最近始まったばかりの物なのです。行く行くは射程を百倍、千倍と伸ばして行く計画になっております。ですがその為の実験にかなりの量の反物質が必要となります。その為我々としてはサリーレの皆様方に支援をお願いしたい所存なのです。」
そう言ってブリッジは深々と頭を下げた。
「……御社の要望は理解した。この件に関しては社に持ち帰って検討する。」
そう答えたリランドはモニター越しに頭を下げるブリッジを少し冷めた目で見ていた。
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この宙域で目を集めていたのは新型砲だけではない。流彗星号も又、数多の技術者の注目を受けていた。
その中でもストームと呼ばれる銀髪の研究者は流彗星号をいぶかしげな表情で見ている。
「なぁ、シマモト。サリーレの宇宙船、”流彗星号”だったか?この船は何処の船だ?」
「何だストーム?流彗星号?……航宙管制用自動応答装置から検索するとブラジオン型宇宙船の改造となっているな。あり得るのかな?」
相棒のシマモトから帰ってきた言葉を聞いたストームは疑義を唱えた。
「何だって?猿の振るう棍棒がブリタニア王の短剣に改造された!?そんなバカな話はあり得ない。」
「確かにバカな話だが……航宙管制用自動応答装置ではそうなっているんだよな。」
「すると航宙管制用自動応答装置の付け替えか?」
「おそらく……違法では無いが何故ブラジオン型宇宙船の航宙管制用自動応答装置を使ったかだな……。普通は新しく取るよな?」
「莫大な費用がかかる訳では無いのにわざわざブラジオン型の航宙管制用自動応答装置を使う理由がわからない。」
「確かにな……それにしてもあの型は何処の宇宙船かな?見た事のない型だ……まてよ?」
何かに気がついたのかシマモトは端末を操作すると流彗星号をスキャンした。正体不明の船をスキャンする事はよくあるのだが、相手が判っている場合のスキャンは大変失礼な行為だ。
「おい、シマモト。流石にスキャンは不味いんじゃ無いか?」
「法律上は何の問題も無い……む?これは?」
流彗星号をスキャンしていたシマモトは何かに気がついた様だ。
「何か判ったのか?シマモト?」
「スキャンしても通常の宇宙船としか判別できない。だが普通の船では無い……。」
モニターのデーター映像を見ていたシマモトが小声で呟く。
「……これは!?……まさか流彗星号は遺跡宇宙船か!?」




