ミカエルの過去 (3/3)
異星人の遺跡を探索するためにはその位置を特定する必要がある。
ただ、その時に自分は位置が判った所でどうすることも出来なかった。そもそも有色人種が自由に宇宙へ行く事自体出来なかったのもある。
宇宙に行く事が出来ないからと言って無為に過ごしていたわけではない。
自分はまず必要な情報、遺跡の位置を知る為に元宇宙船乗りに話を聞くことにした。当時は人種制限法が執行されたばかりで自分のいた鉱山惑星にも黒人の元宇宙船乗りがまだ何人か住んでいた。
自分は彼らに宇宙で起きる不思議な現象について尋ねて回ったのだ。そうそう、宇宙船の簡単な操縦を教わったのもこの時だったな。
数多くいたと言っても、法律が執行されて三十年。多くの船乗りたちはかなりの年齢に達していた。
帝国では有色人種が抗老化防止役を手に入れるのも使用するのも帝国の許可がいる。
その許可は有色人種でもかなりの金持ちしか許可されない。当然のことだが金のない黒人に許可される事はない。
話を聞いた殆どの船乗りたちの記憶は老化の影響で曖昧になっていた。だがその中にも信頼のできる情報はある。
自分は数少ない情報を整理し何とか一つの場所を絞り込めることが出来た。
そうなってくると次はその場所までゆく手段だ。
有色人種、特に黒人では宇宙船乗りになることは困難だ。法律が執行されて宇宙船乗りになった黒人の話は聞いたことが無い。
これは法律で船乗りになることを禁じられているからではない。すべての有色人種は皇帝が定めた場所以外に移動することを禁止されているからだ。
まずバクシット星系の中心である第三惑星イリア。この星には白人のみ入ることが許されている。白人以外が入ると即殺処分だ。
次がバクシット星系から十光年内の位置にある星系。これらの星には黒人以外の有色人種も住むことが許可されている。黒人がこの星系に入ると何らかの処分が下る。この処分はその場所の領主よって決まり、重いのは死刑、軽いのは辺境送り、決まった処分はない。
そしてイラメカ帝国の辺境地域、太陽系連合や中華連邦、サルブ連合国などと接する星系。
黒人はその場所にのみ生存が許されている。それ以外の場所にいた場合、死刑は免れない。
自分は来るべき日のために帝国からの脱出方法、何とかしてイラメカ以外の星系へ亡命できないか色々考えていた。
だが黒人は宇宙船が操縦できないし、操縦方法を教えてくれる者もいない、そもそも宇宙船自体も無い。
この時の自分はお手上げの状態だった。
それが変わったのはそれから五年後、今から十年前イラメカ帝国と太陽系連合との戦争が始まった時だ。
戦争の始まりが何であったのかは自分には判らない。太陽系連合と帝国が争ったのは自分が住んでいた鉱山惑星の近くの宙域だった。
一進一退の攻防が繰り広げられたと聞いている。結局、帝国は連合に敗れ自分たち黒人を残して本星に去っていった。
当時の自分たちには帝国領が連合領に代わることの意味は誰も判って無かった。帝国でも領主が変わることは何度かあったからね。
新しい領主が就任するなりやったことは自分たち黒人に対する未払い賃金の支払いだった。自分は初め気前のいい領主に代わったとしか思っていなかった。
そしてやってきた新しい領主は自分たちに向かってこう言った。
「君たちはこれからどうするのか、帝国に帰りたいものは連合が責任をもって送り届けよう。君たちはどこへ行っても良い、自由だ。」
自分はその時やっと帝国の軛から逃れ自由を得たことを理解したのだ。




