極めて忙しい取締役業
反物質のプラントが稼働しだしてからのサリーレは更に忙しくなった。
まず一つ目が海賊の増加だ。反物質を狙う海賊が増えたのである。
サバーブ達も流彗星号を出撃させたり星系軍にパトロールの依頼を出したりするのだが一向に数は減らない。
反物質は次世代宇宙船の燃料と位置づけされており、手に入れるだけで一攫千金が狙えるとあって海賊連中が大挙して押し寄せた事が原因の様だ。
その次に提携を希望する会社への対応。
反物質がらみで海千山千の会社も提携しようとやって来る。どうも余所の会社から見るとサリーレは”ネギをしょって泳ぐ鴨”に見えるらしい。
提携させる為にあの手この手でやって来る為、気の休まる暇も無いほどである。
その次が販売。
要するに”御社ほど大きな会社ならこの惑星はどうですか?”と言ったセールスマンから”御社の備品を新しい物に変えませんか?”まで大小様々な物を売りつけようとやって来るのである。
電話から直接販売までその手法は様々であるが対応に追われる受付がパニックになるほどであった。
そして最後に星系軍や連合軍への対応。
実はこれが一番厄介な案件だった。
これは軍には海賊から守ってもらっているという側面がある為、強く言えない事も関係していた。
油断すればリランド達を軍に復帰させようと画策する。反物質プラントに軍(星系軍、連合軍それぞれ別々だ。)を置きたがる。その上、反物質の採取に関して一年中の採集を要求する。
プラントとのメンテナンスも関係するので一年の内一月ほどは反物質の採集は行わない。
これはプラントのメンテナンスだけで無くリピーア星系の惑星クラビアにおける環境を守る為でもある。
あの星に生息する通称”ワイバーン”は食材として優秀な事が判明したがクラピアの環境下で無いと大きく成長せず優秀な食材とならない。
その為、クラピアの環境を守る事が必要になる。(ワイバーンの薄焼きは”スターレンバス”という名で売り出されている。)
それらの対応でサバーブ達三人は疲労困憊の極みにあった。
サバーブはもう何日もアリシアと会っていないし、連宋は新婚旅行にさえ行けていない。リランドはキャサリンと毎日顔を合わせいるが家に帰ると即睡眠といった毎日である。
(((おかしい、株価が上がって悠々自適のセカンドライフのはずだったのだが……。)))
三人がサリーレの座席でぐったりしているとキャサリンからの通信が入る。連宋はキャサリンからの通信と言うことでリランドに回線を移動させた。
「おい、リランド。愛しのキャサリン嬢から通信だぞ。」
「む?キャサリンから?」
リランドは慌てて通信回線を開く。リランドの机の端末にキャサリンの姿が映る。
「?リランド?丁度良いわ。ダイアフォース重工から艦船製作の案内が来ています。」
「艦船製作?と言うと新型の輸送船のことか?」
端末の中のキャサリンは軽く首を横に振る。
「いいえ、違うわ。ダイアフォースが言うには防衛艦の案内だそうよ。」
「防衛艦?船では無くて艦?」
キャサリンが首を縦に振る。
「防衛艦の所有は民間企業にはあまり許可されないのですが、扱う物が反物質と言う事で許可が下りています。ダイアフォースはその事を知っているようでした。」
「あ……。」
リランドにはなんとなく理由がわかった。
サリーレには現在防衛艦を扱える乗務員はいない。おそらく軍の関係者が退役後の再就職先としてサリーレを見ているのだろう。
「……リランド、ダイアフォースに断っておく?」
「いや、それは止めておこう。断っても連中は別な手を考える。それなら防衛艦の乗組員を雇う方がましだ。判った。ダイアフォースには三人で伺うと連絡を入れておいてくれ。後その間留守になるが……。」
「了解しました。大丈夫、ほとんどの主要な業務は目処がついているわ。どちらかと言うと今回の艦艇製作が重要だと思うわ。」
「そうか、ではよろしく頼む。」




