結婚式
サバーブは少し緊張した面持ちでマイクの前に立っていた。
友人代表として結婚式の司会を任されたからだ。時々背広の懐から二つ折りにした紙を取り出し書かれた文字を確認している。
「本日はお日柄も良く……」
緊張しながらも何とか結婚式は進む。サバーブは司会の合間に新郎新婦の方へ目を移すが新婦は兎も角、新郎の方は緊張のあまり食が進まない様に見える。
(……しかし、馬子にも衣装と言うことか?普段の三割増しでかっこよく見える。)
サバーブはラフな格好をする普段の姿を思い出し納得した様に頷く。
(この後は牧師の前で宣誓、その後は外へ出てブーケトス、そして閉会……この順番で良かったな。)
レルネー1での挙式は教会式と披露宴が混ざり合った独特の結婚式が行われている。順番についても時に決まりは無く、押さえるポイントをちゃんと押さえていれば問題はない。
牧師の前での宣誓が終わった新郎新婦は来客の前で口づけを交わす。
「それではこれより新郎新婦の新しい門出です。皆様拍手を持て送り出してください。」
来客が皆立ち上がり拍手をする中、新郎と新婦が退場する。と言ってもこれで終わりでは無い。
新郎と新婦は出入口を出たところで立ち、退場する来客ひとり一人に声を掛け、今日参列してくれたことに対してお礼を述べる。
その後、シャワーセレモニー、ブーケトスやぬいぐるみやお菓子をトスする。
先ずはブーケトスだ。
今日の来客の中には婚活に必死な者は少ないのか、時々存在する必死な形相の者はいない。みなお淑やかでおとなしい女性ばかりだ……サバーブにはそう思っていた時がありました。
花嫁が今日の晴れの日に来てくれた女性ゲストに向かってブーケを投げる。後ろ向きに投げられたブーケは大きく弧を描いた。
その途端、集まった女性の表情が変わった。
必死な表情で我先にブーケをとろうと手を伸ばすが高さが合わず飛び上がっても手が届かない。
大きく弧を描いたブーケは空調の風に流されたのか更に飛距離を伸ばし少し離れた場所で立つ女性、キャサリンの手の中に丁度良く収まった。
キャサリンの側に立つリランドは同じ様に側に立つシルビィの方へ疑惑の目を向けた。
「……空調をいじったな?」
「なんのことやらさっぱり……。」
シルビィは明後日の方向を向き”我関せず”といった顔をしているがシルビイが空調をいじった事は明白だ。
ブーケを取り損なった女性達はブーケを手に入れたキャサリンの姿を見ると肩を落とし悄然とした表情を見せていた。
肩を落とす女性の中にはリランドには何人か見たことのある顔が混じっていた。彼女たちは新婦であるレイチェルの同僚の様だ。
形容しがたい表情をして女性達を見ているリランドの元へ司会を終えたサバーブが近づく。そのサバーブにリランドは片手を挙げて挨拶をする。
「よぉ!お疲れ!」
「いや、参った。二度としないぞ……。」
サバーブは笑いながら話すとお菓子を巻いている新郎である連宋を見た。
「……リランドが一番早いと思っていたが……まさか連宋とは……。」
「サリーレも大きくなったことだし身を固めるには丁度良かったのじゃ無いか?」
実際、反物質プラントを稼働するに当たってサリーレの株式公開したところ株価が連日爆上がりし一株二万クレジットと創業時の一株百クレジットに対して二百倍となっている。
「株式の七割は俺たち三人が持っているから会社が余所の連中に乗っ取られる心配は無いし、後ろにカークランド財閥が付いている。正に順風満帆、これからは悠々自適なセカンドライフが待っているんだ。」
「……リランド、それは何かのフラグのようにも聞こえるぞ?」
「ははははは。まさか!」
一ヶ月も過ぎないうちに、この時のリランドの発言がフラグだとサバーブは思い出すのであった。




