挿話:軍曹の日記その4
私の名はスマート・エイブラ。
イラメカ帝国の宇宙軍特殊部隊に所属し強化防護服で戦場を駆けていたのは遠い過去の事、いまは連合の辺境星系のエキドナ星系、その中でも惑星ハイドラの軌道上に浮かぶ宇宙ステーションであるレルネー1の一角に事務所を構え運輸業を営んでいる。
我が社、”スマート&オリバー運輸”、主に建設用の資材の輸送を手がける運輸会社だ。ブラジオン型宇宙船、リベル三世号(半分以上借金が残っている)で建設用の資材や工具を運ぶ毎日である。
今日も建設用の資材を満載にして所定の宙域への輸送を行っていた。
「あおいぃィ~ハイドラうォ~背に受けて~」
のんきに歌を歌っているのは相棒のオリバーだ。
「オリバー、青春の旅立ちが始まる訳でもないし第一ハイドラは青では無く暗い青紫色。しかも所々に黄土色が混じる変な配色だぞ?」
「ハハハハハ、そう言うなって、こういうのは気分なんだ、き・ぶ・ん。」
「やれやれ全く。この辺りは海賊が出ないからいい様な物だが……。」
我々が建設資材を運ぶ宙域は驚いたことに海賊の出没がほとんど無い。宇宙港の酒場で出回っている噂によると連合宇宙軍の元提督や元准将の経営する会社がこの宙域の海賊連中を根こそぎ退治したとか……。その様な連中がいるおかげで海賊連中はこの宙域から移動し稼ぐ場所を変えたらしい。
弱小運輸会社である”スマート&オリバー運輸”にとって安全な航路は何にも変えがたい物なのだ。
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俺たちの船、リベル三世号が二度のジャンプを終えると資材配達の目的地である巨大建造物が見えてきた。
この巨大建造物、何でも小惑星から送られてくるエネルギーを回収する為の装置なのだそうだ。
聞いた当初、“小惑星からエネルギー!?”となったが、小惑星が古代異星人の遺跡である事と装置の開発にあのオーガスタ博士か関わっている事が信憑性を増した。
古代異星人の遺跡ならエネルギーが出てきてもおかしくは無いだろうし(イラメカでその様な事例があったと記憶している)連合一の天才物理学者であるオーガスタ博士が関わっているのならば間違いは無いだろう。
巨大建造物の前には検問用の簡易ステーションが造られており、出入りする業者は全てこの場所で検問を行う。検問を行うのは建設物自体に機密事項がある為らしい。
建設を行うのはオケアヌスでも有名な”ディオーネ宇宙建設”が請け負っており、発注元は”カークランド開発”と”株式会社サリーレ”になっていた。
私にはサリーレの会社名に覚えがある。
「……この“株式会社サリーレ”と言う会社。二年ぐらいに建材を届けた会社だった様な……。」
「ん?その通りだが?当時の伝で今回も請け負う事が出来たんだぞ?」
オリバーによると運搬が良かったという事で新たな建設現場に参入する事が出来たのだそうだ。
「しかし、サリーレとは縁があるのかな?我が社も大きくなったらサリーレはもっと大きくなっているから偶然だろうが……。」
しかしこの時は知らなかった。サリーレと……いや、サリーレの幹部連中と私の間に奇妙な縁がある事を……。




