反物質の星
眼下に広がる天の川銀河。
それは未だかって人類の誰も見た事の無い光景。流彗星号に乗り合わせた男女はただその光景の前に圧倒されていた。
未知の探索を旨としているオーガスタ博士でさえその絶景から目を離す事が出来ないでいた。
「これが誰も見た事のない景色……素晴らしい。いや、素晴らしいという言葉さえ陳腐な表現だな。」
オーガスタの隣で同じ様に天の川銀河を見ていた秘書のミュアは何か気になる事がある様だ。
「博士、この様に銀河系が見えるのは素晴らしいと思うのですが……ここは一体何処でしょうか?」
その言葉を聞いた一同は今の場所が明確に判らない事に気がついた。質問に答えるべくオーガスタは少し考え込む。
「現状は……何か他の基準があれば……そうだ!連宋君、先ほど渦巻き状の物が見えると言っていたね。サブモニターに出してくれるか?」
連宋はオーガスタの言葉に頷くとサブモニターに先ほど見た“小さな渦巻き状の物”を映し出した。
「ん?これは……月ぐらいの大きさだが……そうか!アンドロメダ銀河か!ならば今の流彗星号が浮かぶ位置は……。」
基準となる二点が定まると位置を特定するのは簡単な計算ですむ。
今回の場合、天の川銀河とアンドロメダ銀河の距離は二百五十万光年であると判っている。
天の川銀河から流彗星号の現在位置までの距離は天の川銀河の直径と視野角からざっと計算すると18万光年という距離が出る。
その値とそれぞれの銀河に対して流彗星号から見た角度を加味すれば流彗星号の現在位置は計算できるのだ。
「……ふむ。天の川銀河から軸方向上に18万光年。正確にはゲートのあった場所から軸方向と平行にだな。全くすごい場所だね。」
どうやら流彗星号はとんでもない場所に来ている様だ。
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流彗星号が今浮かぶ宙域の場所は判った。
では何故この様な場所へのゲートがあったかという事が次の疑問だ。おそらく反物質の発生源と関係があるのだろう。
オーガスタは今回調査の目的である反物質の発生源の観測を始めた。
「ミュア君。発生源の大きさは観測できたか?」
「はい博士。発生源は目の前にある天体ですね。大きさから言うと直径が5.6kmの天体ですね。でも質量がとても大きい……。」
「ミュア。天体の直径をもう一度繰り返してくれたまえ。」
オーガスタは気になる事があるのかミュアに再度天体の大きさを繰り返す様に要望した。
「天体の直径は5.6kmです。」
「質量は?」
「1.4×10の三十乗kg、太陽の約0.7倍の質量です。」
ミュアから天体の直径と質量を聞いたオーガスタは大きく歓声を上げた。
「素晴らしい!今日は何て日だ!こんな未知の観測が二つも出来るなんて!!」
オーガスタによると反物質の発生源である天体は何か特別な物らしい。サバーブは恐る恐るオーガスタに尋ねる。
「博士、あの天体は一体?」
「おお、サバーブ君。そうだな、説明の必要があるか……。私は当初、反物質の発生源は反物質星であると予想はしていた。」
「反物質星?」
「反物質が集まって出来た星だ。だがこれは反物質星ではない。」
首を傾げるサバーブ達にオーガスタは向き合う。
「これは反クオーク星だ。」




