事故現場
朝食が終わった数時間後、サバーブ達は衛星軌道上に停泊させてあった流彗星号に戻っていた。
オーガスタ博士と秘書のミュアは資料整理のために船室にこもってしまった。キャサリンとシルビィが船中席に座るかたわら、サバーブ、リランド、連宋の三人はそれぞれのシートに座ると流彗星号の機体の確認を始める。
「動力系に異常なし。何時でも発進可能だ。」
「こちらの火器管制系異常なし。」
「索敵系も異常ない。わしの方も何時でも良いぞ。」
「反物質が飛んで来たにしては流彗星号に異常は無いな……。」
サバーブが計器類を見ながらそう呟くと船長席でシルビィが胸を張る。
「当然じゃ。こんな事もあろうかと斥力フィールドの設定を可視光線以外弾くレベルにしているのじゃ。」
シルビィの言葉を聞きサバーブ達の動きが止まる。その中でサバーブはゆっくりとシルビィの方へ顔を向けた。
「ビィ、すると何か?お前はこの星に反物質がやって来ている事を知っていたと?」
「当然、この流彗星号は私の体でもある。それを守るのは当たり前の事だと思うが?」
「そう言えばそうだったな……その見た目だとすぐその事を忘れてしまうな。」
サバーブの言葉にリランドと連宋の二人も同意して頷く。その二人に対してサバーブは号令をかける。
「兎も角、次の目標に向けて出発だ。連宋、航路の算定をたのむ。」
「とりあえず前回流彗星号がダメージを受けた場所で良いか?」
「先ずはその場所で良いだろう。時間はどのくらいかかる?」
「そうだなぁ……。」
連宋はパネルを操作するとメインスクリーンにリピーア星系と前回流彗星号がダメージを受けた位置を表示させる。
「前回リピーア星系に来た時の速度は光速の40%だったから……巡航速度で向かうと丸一日かかるかな?」
「丸一日か……。意外に近いな……。」
流彗星号の最大速度は光速の40%、巡航速度はその半分の光速の20%である。その速度で丸一日かかる距離というのは太陽から海王星までの距離に等しい。距離からすると同じ星系内と言っても良い距離なのである。
距離が近いがジャンプできない距離ではない。連宋がその是非をサバーブに尋ねる。
「ショートジャンプで近づくか?」
「いや、……ダメージを受けた現場近くまで巡航速度で行った方が良いだろう。その後、現場から速度を落とし周囲を目視だ。」
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程一日後、流彗星号は前回ダメージを受けた宙域近くまで来ていた。航法用のモニターを見ていた連宋が声を上げる。
「サバーブ、この辺りがダメージを受けたところだ。」
「了解!流彗星号、減速する。通常巡航速度の1/1000を維持。」
サバーブ達は流彗星号が速度を落とすとメインスクリーンに映し出される景色を凝視した。メインスクリーンには流彗星号から見える景色、前面と上下左右の景色が映し出されている。
「何も見えないな。かなり遠くの方の光は見えるが……あれは何光年も離れた恒星のようだな……・。」
「わしには何もない空間の様に見えるな。」
サバーブと連宋が何も無いと呟く中、リランドが首を傾げる。
「なぁ、サバーブ。俺の目には十六個の小惑星が浮かんでいる様に見えるのだが?」
リランドが指摘したとおり、宇宙空間に目をこらすと確かに十六個の小惑星が円周上を等間隔に並んでいるのが見えた。
連宋はその十六個の小惑星を確認するとサバーブに尋ねた。
「この辺りは反物質が充満していて流彗星号がダメージを受けたところだよな?」
「ああ、間違いない。流彗星号はこの辺りでダメージを受けた。」
「なら反物質がその辺りに充満していたと言う事だろう?だったら何故あの十六個の小惑星は消えていないのだ?」
サバーブ達の目の前には見覚えのある十六個の小惑星があった。




