星系Xへ向けて
宙域図を前にサバーブ、リランド、連宋の三人は真剣な表情になる。
本来、超絶な技術で製造さられた流彗星号が大破しかけた事自体が問題であり、乗組員である三人の力不足だと言われてもおかしくは無い事だった。
これはある意味、雪辱戦なのだ。
目標の地点が映し出されたスクリーンを前にサバーブが音頭を取る。
「この赤い線上に次の目標が存在する。目標に向かうのは良いが前回の流彗星号がダメージを受けた原因が今ひとつ判らない。このままだと前回の二の舞になるだろう。」
サバーブの言葉を聞いて連宋はスクリーンに前回流彗星号がダメージを受けた時の船内データーを表示させる。
「これがダメージを受けた時の流彗星号の船内データーだ。これによるとダメージを受けるまで斥力フィールドはちゃんと機能しているね。」
同じ様にデーターを見ていたリランドは顎に手を当てて考え込む。
「と言う事は何だ?斥力フィールドを貫通してくる攻撃と言う事か?そんな物は存在するのか?」
「有るかもしれないし無いかもしれない。オーガスタ博士は流彗星号がダメージを受けた原因について心当たりがありそうだったから伺いたかったんだが……。」
サバーブがそう呟いてため息を吐くとその後ろから声がかかる。
「私がどうしたって?」
サバーブ達が声の方へ顔を向けるとそこには白衣だけをまとったオーガスタ博士が立っていた。見えそうで見えないその姿を見た秘書のミュアが声を荒らげる。
「博士!又そんな格好をして!」
「良いじゃ無いか、減る物ではなし。それにこの格好の方が楽なんだよ。締めつけられるのは苦手でね……。」
「はぁぁぁぁ。せめて前はちゃんと閉じておいてくださいよ。全くもう……。」
ミュアがオーガスタの白衣のボタンを閉じる中、オーガスタはサバーブ達の方へ顔を向けた。
「それで、サバーブ君。何か聞きたい事があるとか?おっと、食事に来たんだった。今日は薄焼きワイバーンか……いいねぇ。質問は食事をしながらでかまわないだろう?」
そう言うと自分の座席に着き食事を始める。サバーブは”難破の原因は反物質”とオーガスタが考えた理由を尋ねてみる事にした。
「オーガスタ博士、カークランド提督の船や流彗星号が難破した原因は反物質にあると考えておられるのでしょうか?」
「難破船の破片から高エネルギーのよって穴が開いたのは判っていたがその物質の候補が幾つもあった。反物質が原因であると特定できたのは昨日のワイバーンとの衝突だね。」
どうやらオーガスタ博士は昨日の衝突で起こった現象から確定に至った様だ。
「ミュア、昨日の測定データーを出してくれたまえ。」
ミュアは再度パネルを操作し先ほど表示した測定データーを再表示させる。
「このガンマ線の量からすると飛んできているのは陽電子、大きくても反陽子。ワイバーンと衝突した大きさの反物質は極めて珍しい物だね。でも斥力フィールドがあればその大きさでも大丈夫だ。」
連宋はオーガスタの話を聞いていてふと疑問に思う事があった。
「……サバーブ。反物質というのは通常の物質とは丁度逆になっていて、物質と衝突した場合は対消滅を起こすのだろう?だけど物質でもあるから斥力フィールドで防御できるのは間違いないか?」
「物質だからな。間違いなく斥力フィールドで防ぐ事は可能だ。だから私には疑問なのだ。なぜあの時、流彗星号のエンジンや斥力フィールド発生装置が壊れたのだ?斥力フィールドで反物質を弾けるのなら対消滅は起こらないはずだ。」
流彗星号のエンジンに異常がこった時は宇宙空間を航行中で斥力フィールドは展開していた。斥力フィールドで弾く事が出来るはずだ。しかし、現実には流彗星号に反物質が当たりエンジンや斥力フィールド発生装置が壊れた。
物事には例外がある。これはその例外に属する事なのだろうか?
そんなサバーブ達の疑問にオーガスタは答える。
「サバーブ君、連宋君、その時の斥力フィールドは何処まで弾くレベルだったのか?」
「確かレーダーで観測する為に電磁波は透過出来る様にしていました。原子のレベル以上は弾いています。」
「……原子のレベル以上を弾いているのが原因だね。」
「「?」」
「宇宙空間には物質だけで無く電磁波、光子や陽子、電子も飛んでいる。当然、その宙域では反陽子や反電子も飛んでいるということだよ。」
「「あ!」」
宇宙では通常の大きな物質だけで無く小さな単位の物質、それこそ陽子や電子も飛んでいる。宇宙船が通常航行する場合、陽子や電子の様な小さな物質は船の外殻で防ぐ事が出来ほとんど影響を与えない。そのため斥力フィールドで弾く対象にする事は無い。
しかし、通常の陽子や電子が通過すると言う事は反陽子や陽電子も通過すると言う事なのだ。
「通過した反陽子や陽電子がエンジンや斥力フィールド発生装置に当たり壊れた……。」
「正解。」
オーガスタはそう一言言うと薄切り焼きワイバーンを口にした。
陽子や電子なら船の外殻で阻止されるが、反陽子や陽電子の場合、外殻を構成する物質の陽子もしくは電子と対消滅を起こす。反陽子や陽電子の量が少なければ問題になる事は無かった。
しかし、流彗星号がダメージを受けた地点は反陽子や陽電子が大量に飛び交う場所だったのである。
その為、短時間の内に船の外殻が消失し、外側に配置されているエンジンや斥力フィールド発生装置がダメージを受け大破したのである。
「まて、そうなると斥力フィールドのレベルを上げる必要がある。そうすると船外の様子が観測できなくなるがどうすれば良い?」
「そんな物……もぐもぐ……決まっている……もぐもぐ。」
オーガスタはサバーブ達を横目で見ながら薄焼きワイバーンを胃に収める。
「電磁波を見る。つまり目視だよ。」
そして残りの薄焼きワイバーンをコーヒーで流し込むと立ち上がった。
「さあ、準備は良いかな?次の目標……そうだな、星系Xとでもしようか?その星系Xへ向けて出発しようじゃ無いか!」
オーガスタ博士は何時でも何処でもマイペースな人物であった。




