宇宙からの物体X
オーガスタ博士が言うガンマ線を発生させる現象、サバーブ達にはその現象について心当たりはなかった。
恒星は超巨大な核融合炉でもあるのだから惑星上とは異なり宇宙空間では放射線が存在するのは当たり前である。
惑星上でガンマ線を発生させると言うことは、小さな太陽が惑星上に存在すると言うことと同意である。その様な現象が常に起きていること自体考えられない。
そんなサバーブ達の考えを知ってか知らずか言葉をつづけた。
「まぁ、見ておきたまえ。この星の天体ショウの始まりだ。」
オーガスタをそう言うと直陸艇の窓の外を指差した。
窓から見える空はすっかり暮れて夜になっていた。その夜空をいくつもの流星が流れてゆく。
その光景を見て連宋はポツリと呟く。
「流星群というやつか……わしは初めて見る光景だな。」
サバーブは連宋の言葉に引っ掛かりを感じた。
「連宋、この惑星の衛星軌道上に小惑星はどの程度存在した?」
「……そう言えばレーダーはクリアーだった。軌道上に小惑星は確認できていない。」
(やはり、この惑星軌道上に小惑星は無かった。確かこの星系には小惑星帯も無かったはずだ。となると流星の元となる小惑星は一体どこから……。)
考え込むサバーブにオーガスタは声をかける。
「サバーブ君はあれが流星群だと思うのかね?」
「……その尋ね方から判断すると、あれは流星群では無い?」
「そうだ。流星群の様に見えるが、流星群では無い。あれは……この場合、物体Xとしておこうか……。あれは別の星系からきた物だ。」
「別の星系?と言うことはあれは“宇宙から来た物体X”……何か嫌な物みたいですね。博士はあれが何であるか知っているのですね?」
「当然じゃ無いか。物質と反応してガンマ線を出す。その様な物質は一つしかない、あれは“反物質”だよ。」
反物質
構成する素粒子の電荷などが逆の性質を持つ粒子である。通常の物質と衝突すると対消滅を起こし、全ての質量がエネルギーに変換される。
その為、宇宙時代においては燃料の積載量を劇的に減らす事が出来る物質として注目されていた。
だが作成が極めて難しく十分な反物質を得ることが出来ないため反物質を使った宇宙船の計画は頓挫していた。
「反物質?一体どうやってその様なものが?そもそも反物質はこの宇宙にはあまり存在しないのでは?」
オーガスタはサバーブの問いかけを聞き少し考える。
「反物質は宇宙生成の初期に殆どが対消滅でエネルギーになったと考えられる。しかし、宇宙に存在しないわけではない。通常の物質と反応しなければ長期に渡り存在する事が可能だ。」
「長期に渡り存在する……それでは博士は何処かに反物質が存在すると?」
「おそらく、それが次の探査目標だろう。」
カークランドの依頼は難破した宙域の調査だ。その調査には難破の原因を調べることも含まれる。オーガスタはカークランドの船やサバーブ達の流彗星号が難破した原因を反物質であると確信している様であった。




