ワイバーンの秘密
サバーブ達は”薄切り焼きワイバーン”を満腹になるまで食べ満足した様だ。山が無くなったトレイを見て連宋は少し考えこんでいた。
「しかしこの”薄切り焼きワイバーン”どこかで食べた事がある様な気がするな……。」
連宋は過去に食べたもので近い物を思い出そうとしている。その様子を見ていたサバーブの脳裏にも何か引っかかる物があった。
「……食べた事があるか……そう言えば私も食べた記憶がある様な……無い様な?」
大の男二人がからになったトレイを前に考え込んでいた。その二人を見てオーガスタの秘書であるミュアが首を傾げる。
「……近いと言えばポップコーンでしょうか?」
「うーん。わしが食べたものはそれでは無いなぁ。」
連宋の言葉にサバーブも頷く。
「軽い感じだから近いのですけどね。ポンポン弾ける訳では無いから違うのかな?」
「ポンポン?」
「ぽん?」
ミュアの言葉に反応したサバーブと連宋はお互いに顔を見合わせる。
「「ポン菓子だ!」」
「ポン菓子?」
“ポン菓子”と言う言葉を聞いたオーガスタは納得する様に頷く。
「そうだな。成分的にも構造的にもあれが近いか……。若干、素材その物が甘いが……。」
サバーブはオーガスタの言葉の構造という言葉が何故か気にかかった。
「構造的?」
「うむ。ポン菓子もワイバーンも多孔質の炭水化物だ。ワイバーンの方が香りの成分と甘みの成分を多く保っているのでそのままでもおいしく食べられる。」
「炭水化物ですか?それに多孔質に成っているのは何故なのでしょうか?」
「サバーブ君、良い質問だ。そもそもこのワイバーン、我々の基準で言うと動物と言うより植物だ。そして……少し待っていてくれ。」
サバーブにそう告げるとオーガスタ博士は格納庫の方へ何かを取りに行った。数分後格納庫から戻ってきたオーガスタの手にはワイバーンから切り取られた組織があった。形は少し大きなカモメの様に見える。
「博士、それは?」
「サバーブ君、驚く事にこれがワイバーンの本体なのだよ。」
「この小さな物がですか?」
「うむ、この小さな部分が残りの部分を長い年月をかけ作り出していたのだ。ワイバーンの羽、謂わば年輪の様な物と言うべきか……。おっといけない、多孔質の質問だったな……サバーブ君、この本体を持ってみたまえ。」
そう言うとオーガスタはサバーブにワイバーンの本体を手渡した。
「……以外に重いですね。羽はあれほど軽かったのに……何故でしょうか?」
「それがワイバーンの羽が多孔質である事と繋がるのだよ。サバーブ君、その本体はそれで飛べると思うかね?」
サバーブはワイバーンの本体を上下左右しばらく観測する。
「重量と形状からこのワイバーンの本体では空を飛べませんね。重すぎますし滑空する構造になっていません。」
「そう、だから多孔質の羽なのだよ。本体だけでは重すぎて空を飛べないが羽を細かな多孔質にする事で全体を軽くし空を飛ぶ事が出来る様になっているのだ。」
ワイバーンが空を飛ぶ仕組みにサバーブは感心した様に呟く。
「それはすごい。……あ、でもその材料はどこから調達しているのでしょうか?空を飛ぶ限り調達は難しいと思いますが?」
サバーブの言葉を聞いたオーガスタがニヤリと笑う。
「サバーブ君、材料はあるじゃ無いか……それこそ至る所に存在するだよ。」
「至る所?もしや?」
そう言うとサバーブは生き残りのワイバーンが飛ぶ空を見上げた。
「察しが良いのは感心するね。そうだワイバーンは空気中から全ての物質を回収する。そして光りを使いその物質を体組成に変える。正に空飛ぶ植物と言える存在なのだよ。」
「空気中の物質を利用……光合成もしてそうですね。しかしそれだと巨大化する為のエネルギーが足らない気が?」
「そこがワイバーンのすごいところだよ。地球の植物の光合成は400nmから700nmの範囲の光りで光合成を行うがワイバーンは更に短い波長、1nmと言う極めて短い波長でも光合成が出来るのだ。そしてこれは別の現象も示唆している。」
「別の現象ですか?」
「ワイバーン達を墜落させた原因。高出力のガンマ線を放出する現象は”この惑星で数多く起こっている”と言う事だよ。」




