ミカエルの過去 (1/3)
「自分が生まれたのはイラメカ帝国でもバクシット星系の第三惑星イリア。そこはイラメカ帝国の中心であり首都である惑星だ。」
ミカエルは静かに自分の過去を語り始めた。
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自分が生まれたのはイリアでも一番大きい大陸、イラメカ大陸。イラメカ帝国の名前の由来となっている大陸だ。
その中でも最も大きい都市である首都アイン。
知ってはいると思うがイラメカ帝国では昔から身分がはっきりと分かれている。
最上位に位置するのは金髪碧眼の白人種。こいつらは皇族として君臨している。それ以外の白人種が貴族階級。その下が黄色人種。彼らは一般的な市民で様々な職に就くことが可能だ。
で、最下層が自分の様な黒人種。最下層である黒人種は肉体労働を主にする職にしか就けない。
肌の色で住むところも制限され自由に行き来はできない。イラメカとはそんな国だ。
今時そのような人種差別がまかり通っているのは不思議に思うだろう。
それもそのはずだ。
今の太陽系連合に人種差別と言う物は存在しないからな。
自分もここにきて驚いたよ。こんな世界があるんだ!……ってね……おっと、話がそれた。
そもそもイラメカに人種差別が残っているのは人種差別をしていた連中の子孫が作り上げた国家だからだ。
そんな国だけど黒人は黒人なり楽しくやっていた。
自分は辺境への航路のナビをしている爺さんから宇宙の不思議な話、宇宙で見えるオーロラ、何もない所にある奇妙な反応、近づくと船に穴が開く場所と言った話を聞くのが好きだった。
小さい頃は歌をよく歌って……自分はこれでも歌は上手く”天使の歌声”と言われたんだぞ。
それに、イラメカに人種差別撤廃の動きが無かったわけでは無いんだ。
自分が子供のころ……丁度五歳ぐらいになった時だろうか、Xと呼ばれる人物……名前が何故ないのか?
ああ、彼は存在自体を消されたんだ。
彼の名前をいうだけで憲兵がやってきて即処分される。それも大人こども関係なしにね。
だから名前が伝わっていないのだよ。
で、そのXなる人物と当時の皇太子であるバッシュ三世が人権運動を起こしたんだよ。
今のイラメカではバッシュ三世は太陽系連合の文化に毒された暗愚とされている。
当時は皇太子の後押しもあった事で人種差別撤廃の公民権運動は実ろうとしていた。
それが反対派を率いた皇女アイリーン、後のイラメカ六世によって覆された。
正に調印のその時だった。
乱入した反対派はXを殺害。首謀者のアイリーンは皇太子を国家内乱罪で逮捕、即処刑。調印の場にいた者、時の皇帝を含めて全て虐殺。
運良く逃げ延びた者はその時の惨劇の現場を”血の海の中にいる様だ”と言っていたよ。
その惨劇の後、皇女アイリーンはイラメカ六世として君臨した。
それからのイラメカは更にひどい状態になった。
”人種制限法”が執行されたからだ。
これは白人以外の有色人種のあらゆることに制限を設けた悪法だよ。中でも黒人は文化的な物、文学や芸術、音楽などが禁止になった。
自分は制限法によって強制的に声を変えられ歌うこと自体を禁じられた。でも、自分は歌うことは止めることは出来なかった。
二十歳の成人の年齢になると自分は辺境の鉱山惑星送りになった。どうやら歌うことをやめなかった自分への見せしめのようなものだったらしい。
それから三十年は鉱石を掘る毎日だった。
ある時、仲間の一人が鉱山から遺跡の一部と銀色に輝く奇妙なカプセルを見つけたのだ。今を思えばそれが転機だったのだろう。




