カークランドの依頼
食事の後、サバーブ達はカークランド本家の応接室へ案内された。
部屋には大きな暖炉の前にテーブルといくつかのソファーが置かれ天井からのシャンデリアが周囲を明るく照らしていた。暖炉の反対側には両開きの大きな窓がありその窓から満天の星々が見えている。
部屋の入り口から最も離れたソファーにはカークランドが座り、その隣のソファーにはアリシアが座った。サバーブ達は丁度アリシアの隣のソファーだ。
カークランドはアリシアの座るソファーの位置がサバーブの座る位置に近い事が少し気になったが一呼吸入れると話を切り出した。
「さて、サバーブ君、リランド君、連宋君。君たちに頼みたい事……どちらかと言うと依頼といった方が良いかな?それは私が難破した宙域の調査だ。」
カークランドはそう言うとテーブルの上を数回叩いた。どうやらテーブル自体が情報端末になっているらしく表面に調査地域の宙域図が浮かび上がる。
宙域図を見たサバーブ達はそれぞれに思いを巡らせていた。
その宙域はカークランドの船だけで無く、流彗星号もあわや難破の危機でもあったからだ。超高性能の宇宙船であっても少しの油断が危機を招く宙域の調査である。サバーブ達が少し躊躇するのは無理もなかった。
「宙域の調査ですか……確かにあの宙域には何かあります。と言っても流彗星号でさえ謎の攻撃によって難破するところでした。」
サバーブの言葉にカークランドも頷く。
「それは私も同じだ。私の船もあの宙域を通りかかった時に謎の攻撃を受けジャンプドライブを損傷した。当時のレーダーはどうなっていたかね?」
カークランドの質問に連宋が答える。
「レーダーには何も反応はありませんでした。それどころか小惑星の一つさえ見つからなかった事を覚えています。確かあの時、サバーブは小惑星が一切見つからないのは変だと言っていたか?」
「そうだな。奇妙な事に周囲十光秒の範囲には何も存在しない事になっていた。しかし、流彗星号は攻撃を受けた。リランド、この事はどう考える?」
リランドは少し考え込むと自分の見解を述べる。
「まず言える事は、これが狙撃であったなら途轍もない腕前の持ち主だと言うことだ。」
リランドの見解に連宋は首を傾げた。
「リランドもこの間、ゲート破壊の狙撃に成功させていただろう?あれよりも難しいのか?」
「そうだ。十光秒……つまり十秒間に光が進む距離だから約三百万km。あの時の狙撃距離の五百万kmよりも近いが標的が動いている。十秒後の位置を予想する事は不可能と言って良いだろう。」
リランドの言葉を聞いたサバーブは腕組みをして考え込む。
「つまり、あれは攻撃ではなく物理現象の可能性もあると言う事か?」
「攻撃でないのならそう考えられるな……。」
「だとしたら人が足りない。物理現象、特に宇宙における物理現象は軍出身の私達にとって門外漢だ。かといって物理学の専門家の知り合いは……いないな。」
それまで傍で話を聞いていたアリシアが口を挟んだ。
「サバーブ様、差し出がましいかもしれませんが、私の知り合いに宇宙物理学を専門にしている教授がいます。ただ、その教授は……少し変わったところがあるのですが……」
アリシアの言葉にカークランドが反応する。
「そうか!オーガスタ博士に協力を要請するのだな?」
カークランドの言葉にアリシアはにこやかに微笑み頷く。どうやらオーガスタ博士とはカークランド家に関係する人物の様だ。
しかし、サバーブにはアイシアが言った”少し変わったところ”が少し気になるのであった。




