答え合わせ(サバーブ編)
通信が切れるとサバーブは大きく息を吐き操縦席に背中を預けた。
「連宋、イラメカの連中に現在地の情報を送っておいてくれ。」
「了解。それでサバーブ、先手を打たれた分は取り戻せたのか?」
連宋の問いかけにサバーブは両手を広げると首を横に振った。
「無理だね。流石に今の状況ではひっくり返せない……でも判った事が何点かある。」
「判った事?」
「あの自称貿易船の連中はイラメカ軍人に違いない。それとどうやらこちら側を軍艦、それも最新鋭の艦艇と見ている様だ。そして奴らは宇宙ゲートについてかなりの知識がある。」
サバーブの言葉に連宋は反論する。
「ゲートの知識がある?今まで公にはなってなかったし、情報部でもわしは聞いた事が無い。ゲートの様な物がイラメカだけの知識になる程、連合の諜報員のレベルは低くないぞ?」
「おそらく知識を得たのは最近だろう。ただあの連中はゲートを通って移動出来る事を否定しなかった。その上『一方通行であった場合』とも言っていた。普通、得体の知れない場所を通る時に言う言葉は『元の場所に戻れなかったら』だ。通行できないことを最初に考えつく事は無い。」
「あ。」
「それらの点から考えてイラメカ軍は宇宙ゲートについて相当な知識を持っていると考えられる。今のところイラメカの連中はゲートを操作する事は出来ないが時間の問題だろう……。」
「時間の問題?と言うよりもイラメカの連中がゲートの操作ができないと何故判るのだ?」
サバーブは当然の様な顔で答える。
「その理由は連中が短時間でやって来たからだよ。自分達で開閉する事が出来るなら不意に開いたゲートがあると何がやってくるか確認するだろう。しかし連中は私たちがゲートを通る前にやって来た……。」
「なるほど……。」
連宋はサバーブの言葉に納得するが、何か気になる事があるのかリランドが口を挟む。
「だがサバーブは何か問題があると考えている……だな?」
「その通りだ、リランド。連中は『イラメカの辺境を航行中に』と言っていた。つまり宇宙ゲートの一方はイラメカの辺境にあると言う事だ。その場合だと宇宙ゲートは連合にとって実に不味い位置にあると言える。」
「辺境と言っても色々な場所が考えられるからな……。」
リランドの言葉にサバーブは同意しイラメカや太陽系連合が描かれた宙域図をモニターに映し出した。
「今流彗星号が居る場所は太陽系を挟んでイラメカ帝国とは丁度反対の位置だ。そしてイラメカ帝国の辺境と言われる場所は暗黒宙域を含め広範囲にわたる。バレーヌやカシャロ星系の様に連合の宙域近くなら艦隊が集結した場合は事前に察知可能だ。」
「逆に蓬莱連邦近くの辺境の様な連合から遠く離れたと宙域の場合、事前察知が難しくなる……。サバーブはどうするつもりだ?ここに連合の艦隊を駐屯させるのか?」
リランドの問いかけにサバーブは首を横に振り否定する。
「だめだ、リランド。それでは間に合わない。先ほどのイラメカの艦艇が工作艦なら本体がやって来る。そうなれば連合の艦隊が集まる前に橋頭堡を確保される。」
サバーブはそう言い切ると周囲をくるりと見廻す。
「イラメカの本体がくる前にゲートを閉じなくてはならない。その上でゲート機能をロック、最悪破壊する必要がある。」
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サバーブがゲート機能の停止を決意していた頃、ウォーデンは上司であるヴァナルガンドからモニター越しに叱責を受けていた。
「貴様!栄えあるイラメカ帝国軍人であろう者が敵を目の前に一戦もせず逃げ出すとは何事かっ!」
「私が乗船した艦は”補給艦”としての機能しか無く戦闘能力はありません。それに対し連合の新型艦艇はは大きさから考えて軽巡洋艦、元戦艦とは言え三十年前の物です。最新鋭の艦艇に勝つ事は出来ません。私はそれよりも情報の伝達を優先したのです。」
「まだ言うかっ!でかい図体を生かし体当たりでも何でもすれば良かったのだ!」
「それは本末転倒です。連中の情報をイラメカに伝える事は出来なくなり任務を全うする事が出来ません。」
頭に血が上ったのかヴァナルガンドは歯を食いしばりながらウォーデンを睨み付けた。が、不意に目元が和らぎウォーデンに語りかけた。
「……判った。ウォーデン、貴官に新たな任を与える。本国に帰りその情報を伝えたまえ。」
「はっ!謹んでお受けいたします。」
ウォーデンは一礼すると通信を切った。
映像が消え黒くなった通信用モニターを前にヴァナルガンドはニヤリと笑う。
(ウォーデンの奴が取り逃がしたサバーブとやらをこの私が倒す。これで誰が見てもこの私が優秀であると判るでは無いかっ!)
ヴァナルガンドは立ち上がるとプルーニアの大型艦橋に響き渡る声で命令を下す。
「これより本艦は宇宙ゲートに突入する。連合の最新鋭艦を拿捕、もしくは撃破するのだ!」




