駆け引き
宇宙ゲートから出現した自称貿易船を前にサバーブ達は手をこまねいていた。
サバーブはモニターに映し出される貿易船の映像を前にじっと考え込んでいる。サバーブが動かない事にしびれを切らしたのかリランドが声を上げた。
「サバーブ、相手に通信して反応をみるのはどうだ?」
「……それは考えた。しかし、通信内容が浮かばない。航路から大きく外れていれば色々と考えられたが……。」
流彗星号が今現在いる宙域は通常航路からすこし外れた宙域であるが貿易船が航行しないとは言えない場所である。
航行しない様な場所で出会ったのなら、異常事態(海賊に乗っ取られている等)を確認するという名目で相手に尋ねる事が出来る。ただ変哲も無い宙域で通りすがりの相手に通信を送る事はない。
「……威嚇砲撃は?」
「それは不味い。相手が貿易船を名乗っている以上、こちらからの攻撃は海賊行為と受け取られかねない。」
「ではサバーブは相手の出方を待つのか?」
「いや、このまま通常航行で進み続ければ通信のチャンスは出来る。」
「?」
端末を操作するとサバーブは流彗星号の予定航路と貿易船?の予想航路をメインモニターに映し出した。
「このまま直進するとニアミスの可能性が高い。それを回避する為には宇宙船同士の間隔をある一定以上の距離に保つ必要がある。回避する必要がある場合事前に警告が必要だが、今はそこまでの距離では無い。予定では流彗星号とあの船の距離が……。」
サバーブが説明を続ける中、連宋の声が上がる。
「サバーブ、相手からの救難通信が来た!」
「救難!!通信内様は!?」
「『本船はイラメカ帝国、ウォーダン商会所属ガングルト。本船は現在地不明の状態にある。至急、現在地の情報の提示を願う。』」
通信内容を聞いたサバーブは頭を抱えると声を上げた。
「やられたっ!」
その声を聞いた連宋がサバーブに問いかける。
「どうした、サバーブ?」
「イラメカは宇宙ゲートの利用を秘密裏に行うと考えていた。その為、船の所属はある程度伏せる物だと考えていた……だが救難信号ではっきりと所属を示された以上、位置情報を教える必要がある。」
「宇宙航行法か……現在地不明も救難要請の一つだからね。それと目の前の救難信号を無視する訳にはいかないからな。」
「……それに通常なら現在地の情報は教えても問題の無い情報に入る。問題は相手の目的が何処までの範囲かという事だ。橋頭堡を確保する為ならこの後、艦隊が出現するかもしれない。その場合は連合にとって好ましくない状態になるだろう。だからその前に宇宙ゲートは破壊する必要がある。」
「破壊?閉じるでは無く?」
「そうだ。閉じるだけならゲートを利用される可能性が残る。それとゲートの破壊は相手の船を追い返してからだ。ゲートの破壊しようとするとあの船が妨害する可能性が高い。」
サバーブはため息を吐くと自分の座席に腰を下ろした。
「連宋、相手の艦との通信を開いてくれ……。」
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ガングルトの艦橋ではウォーデンの部下達がせわしなく動いていた。そんな中、通信兵から声が上がる。
「流彗星号から通信が入りました!」
「判った、モニターに出せ!」
通信兵が流彗星号との回船を開くとガングルトのメインモニターに操縦席に座るサバーブの姿が映し出された。
「こちらはエキドナ星系所属、流彗星号。私は操縦士のサバーブだ。貴艦は現在地不明とあるが一体どこから来られたのか?」
「本船はイラメカ帝国辺境を航行中、奇妙な現象に巻き込まれこの様な場所にでたのだ。ここは一体何処なのか?」
サバーブはウォーデンの言葉に首を傾げ判らない振りをする。
「奇妙な現象?と言うと貴艦の後方にある輪の様な物を通ったという事か?」
「……おそらくそうだろう。我々も商会帰る必要がある。その為にも現在地の情報が知りたい。」
「輪の様な物を通ったのか……。」
サバーブは少し間を置いて話を続けた。
「ならばその輪の様な物を再度通れば帰る事が出来るのでは無いだろうか?」
「おそらく帰る事が出来るであろう。しかし、一方通行であった場合、帰還する為には別方法を取らなくてはならない。」
「……判った。別通信で詳細な現在位置の情報を送ろう。……それにしても貴官の船は戦艦の様に大きいな。」
ウォーデンはニヤリと笑って答える。
「ええ、元は軍船ですからね。砲塔を撤去するだけで貿易船に出来たので重宝しています。速度も出ますしね。私どもの船より貴官の船ですよ……。その姿、最新鋭艦ではありませんか?」
「いや、これは救出のお礼にもらい受けた貿易船ですよ。通常の船に毛が生えた程度ですが……。」
それを聞いたウォーデンが
「そうでしたか……それなら我々ウォーダン商会も何か送らねばなりませんな……。」
「いえいえ、お気になさらずに……。おっと、長話をしていると後ろの輪が使えなくなるかもしれませんな。」
「その場合は貴官に頼らせていただきますよ。」
「お手柔らかに……ははははは。」
「こちらこそ……ははははは。」
両者お互いに笑い合って通信を切った。通信を切り終えたウォーデンは大きく息を吐き船長席の背もたれに体を預けた。その様子を見たローズルはウォーデンを心配そうに見つめる。
「ウォーデン様、今のは一体?ごく普通の会話の様に見えましたが?」
「ごく普通……そう見えたか。くははははは。」
ウォーデンはひとしきり笑うとローズルに顔を向けた。
「ローズル、奴らのおよその目的は今の会話でつかめたぞ。」
そう言うウォーデンの目は自信ありげに輝くのだった。




