宇宙艦ガングルト
サバーブ達が今いる場所から宇宙ゲートを見るとカーテンの様に波打つ事は無く綺麗な円柱状に見える。
その宇宙ゲートを見ていたサバーブが連宋に尋ねる。
「歪みが無いという事は異常がある遺跡端末は丁度反対側か?」
「そうだね。丁度反対側になるから歪みが隠れて見えなくなっている。」
「そうか、本来のゲートはこの形なんだな。連宋、このゲートはどのくらいの時間出現している?」
連宋はパネルを操作し残り時間を確認する。
「およそ十二時間。接続先を聞けたら良かったんだけど禁止事項らしいから判らないね。『自分で確認してください。』だって。」
どうやら連宋はゲートの接続先について流彗星号のAIであるシルビィに尋ねてみたらしい。しかし、禁則事項に抵触するらしく教えてくれなかった様だ。
「仕方が無い。十二時間ならゲートを通り周囲の観測をしても余裕はありそうだが悠長にする必要は無い。すぐ流彗星号に戻るぞ。」
サバーブ達は宇宙ゲートを起動させると流彗星号に戻っていた。これは宇宙海賊を追いかける……訳では無く、ただ単にゲートの接続先を確認する為だ。
宇宙ゲートを入り口側から見ると縁の一部が波打っているのが判る。丁度先ほどいた場所の反対側を中心に空間自体が波打って歪みとなっている様だ。
その歪みの規模を見たサバーブは固唾をのんだ。
「歪みの大きさは大きく見て四分の一か……。間違えてもその宙域に入らない様にしないと。連宋、歪みの宙域を詳しくモニターに出してくれ。」
「りょうか……待ってくれサバーブ。重力反応拡大、ゲートを通って何かがくるぞ!航宙管制用自動応答装置によると貿易船らしいが……大きすぎないか?」
サバーブ達が目をこらしてゲートを見ると奥の方から何かが接近してくるのが見えた。その何かは間髪を入れるまもなく巨大な物体となり宇宙ゲートから出現した。その大きさに流彗星号の船体は水上の木の葉の様に揺れ動く。船を見たサバーブは思わず声にあげる。
「でかい!貿易船?いやこれは戦艦か?それにこの形は……見覚えがある船だ。」
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輸送艦ガングルトは元戦艦である。
戦艦として進宙したのは四十年前、それ以来三十年の間第一線で活躍した。そして十年前、老朽化に伴い廃艦となるところを輸送艦として改造を受けた。
主砲や副砲は取り除かれ代わりに搬入搬出用の入り口とクレーンが取り付けられた艦船である。
この艦の初代艦長はイラメカ軍のローズル中佐であり、艦長就任以来一度も艦長席に座った事が無い事で有名であった。
その船長席にウォーデンが座りその傍らにローズルが立っていた。
「久しぶりだな、この席も……。」
「かれこれ十年でしょうか?他のメンバーも健在ですよ。」
ウォーデンが艦長席から船橋内を見廻すと多くの懐かしい顔ぶれがあった。
「諸君も元気そうで何よりだ。では今回の任務について伝える。」
ウォーデンは側に立つローズルに頷き目配せする。ローズルは端末を片手に持ち一歩前に進む。
「今回の任務は宇宙ゲートの接続先である。付近に潜伏していた海賊連中の乗った船が連合製である事を考えると連合内への接続が考えられる。その為、本艦は貿易船に偽装しゲートを進む物とする。通信士、航宙管制用自動応答装置を貿易船の物に切り替え宇宙ゲートに突入せよ!」
「「イエス・サー!」」
ローズルの号令の元、ガングルトは宇宙ゲートに突入する。ゲート内では空間が圧縮している為だろうか航行速度が著しく落ちる。
「ローズル、ガングルトの速度が落ちた様に見えるが……?」
「……先ほどの海賊船の速度と比べると十分の一以下ですね。大きさが速度に関係するのでしょうか?」
「そうか……これも報告事項の一つだな。」
ガングルトの航行速度が十分の一になったとは言え十分に速い。突入開始から一時間も経たずにゲートの向こう側、出口に到達する様だ。
周囲を警戒していた管制官から声が上がる。
「レーダーに反応あり!出口付近に船がいます。……航宙管制用自動応答装置によると連合の貿易船のようです。」
報告を受けたローズルがウォーデンに伺いを立てる。
「撃沈しますか?」
「待て!現在位置の情報を得るのが先だ。それに撃沈は相手を確認してからだ。モニターに出せ!」
ウォーデンの命令で出口付近に停泊していた宇宙船と航宙管制用自動応答装置からの情報がモニターに表示される。
「……見た事のない型の船だな、新型か?……船名は流彗星号、所属はサリーレ、船長は……ミカエル・J・ソーン?たしか連合の歌手だったか?何の冗談だ?そして操縦士が……サバーブ・Q・デジトだと!!」
ウォーデンは自分の降格の原因になった男の名を見つけ思わず声を上げた。




