消えた海賊船
サバーブ達が宇宙のオーロラに見とれていた極わずかな間に海賊船は消えてしまった。あまりの出来事に一同は凍り付いた様に動かなくなった。
しかし船橋に居合わせた者のほとんどが動きを止める中、連宋が動く。
「幸いな事にオーロラを記録していたデーターがある。そこから海賊船がどうなったのか割り出す!」
連宋は猛烈な勢いで記録データーを検索して行く。
オーロラを記録したデーターは映像だけで無く、各所の磁場、重力波等様々なデーターが記録されていた。
その全てを記録当初からこまめに精査する連宋の姿を見たサバーブは時間がかかりそうだと感じ取った。
「こちらはこちらで別のアプローチを考えよう。」
「別のアプローチ?」
リランドは少し首をかしげる。
「海賊船が消えた事が判ったのはオーロラが消えた後だ。そしてオーロラが出現する前は我々の前を飛んでいた。」
「ああ、それは間違いが無い。接近するかどうか検討していたからな。」
リランドは腕を無味ながら思い出す様に二、三度頷く。
「しかしオーロラが消えた後は目標の海賊船も消えた。」
「うむ。」
「この二つの事からオーロラと海賊船が消える事に何か関係があると推測出来る。」
「なるほど。オーロラの線から考えてみようと言う事だな。」
「そうだ。……連宋、メインモニターを使うぞ。良いか?」
尋ねられた連宋は問題が無いと手を上げてOKのサインを出す。
サバーブはメインモニター映し出した“宇宙のオーロラ”の映像の上にオーロラについて判っている事を書き込んでいった。
「まず、惑星のオーロラの例で考えてみよう。
太陽から飛んできた荷電粒子が惑星のN極やS極に引き寄せられ大気に衝突。この際、惑星の大気を構成する原子が励起状態になる。
この励起状態は原子として不安定な状態である為、エネルギーを放出し元の安定状態へ戻る。その時に放出されるエネルギーは電磁波の形で放出される。
これがオーロラだ。
地球上のオーロラに赤、緑、桃の三色しか無いのは励起される原子が窒素と酸素であるのと荷電粒子の強さによって変わるからである。
今度は宇宙のオーロラについて考えてみよう。
発光現象がある異常、荷電粒子を受けて星間物質が励起状態になり発光していると考えられる。
問題は星間物質の量が微少なのにオーロラの様に光ると言う事だ。あれだけの光を広範囲に出す事は荷電粒子のエネルギー量が尋常では無い強さを持っていると考えられる。
だがこれは現実的では無い。
それだけの強さの荷電粒子があればあの海賊船はただでは済まない。何らかの爆発を起こしているだろう。だが爆発の痕跡が無い以上、強い荷電量子の考えが誤りであると判る。
荷電粒子では無いとすればあれは一体何か?星間物質を励起状態にするエネルギー。」
ここまでをモニターに提示するとミカエルが口を挟む。
「サバーブ君。オーロラが光るのは判ったのだが、他に光る事は無いのかな?励起状態と言われても私にはさっぱりだ。」
「すまん、サバーブ。俺も判らん。レイキ、冷気状態?」
ミカエルやリランドにそう指摘され物理学とは関係の無い人々にはなじみが無い言葉だと気がつく。
「励起状態というのは……。」
ここでサバーブが言葉に詰まる。励起について説明するとそれに出てくる用語の解説も必要になるからだ。
考え込むサバーブにリランドが声をかける。
「何かもっと判りやすい例えは無いのかなぁ?例えば斥力フィールドで弾かれた物が燃えて光るだろう?そんな感じの……。」
「おいおい、リランド。あれは燃えている訳では無いぞ。弾かれた、つまりエネルギーを与えられた物質が……。」
リランドの斥力フィールドの説明をしようとすると連宋から声がかかった。
「サバーブ、ちょっと見てくれ。これが“宇宙のオーロラ”の発光分布だ。」
連宋がメインモニターに海賊船とオーロラの発光部分の分布図を映し出した。オーロラの発光部分は海賊船を中心に半円状に分布している。
それを見たリランドは首をかしげた。
「半円状?何故だ?」
「これは上から見たところだからね。わしらが見たのは横から……。」
連宋が端末を操作すると半円状の映像は先ほど見たオーロラの形状になった。
どうやらサバーブ達の見ていたオーロラは横から見ていた為、カーテンの様に見えていたらしい。




