バレーヌの脱出 その4
ローズルの号令で連合の戦隊を包囲していたイラメカ帝国の艦隊から強烈な光が連合軍の艦艇に降り注ぐ。その攻撃と同時に連合軍の戦隊からも反撃の光が周囲に放たれた。
イラメカ軍のウォーデン少将は戦場に絶え間なく放たれる光を前にほくそ笑んだ。
「圧倒的じゃ無いか、我が軍は…。」
そんな慢心している様な台詞を吐くウォーデンを副官のローズルが嗜める。
「閣下、今の台詞は死亡フラグと言うものです。過去に何人もその台詞を吐いた後に死亡もしくは逆転されています。中には『甘いようで』と言われ銃殺された者もいます。」
「銃殺!そ、そうか……ローズルが言うのだから間違いはないのだろう。ふむ……。」
ウォーデンは戦場を絶え間なく映し出すモニターを見ながら少し考え込む。
「一番から五番までの艦は敵旗艦へ攻撃を集中させよ!五番から十番まではその周囲の敵艦を攻撃!」
絶え間なく爆光が艦橋のモニターに映し出される中、オペレーターの声が響く。
「敵艦後方に多数のジャンプアウト確認!我が軍の艦艇です。」
新たな艦艇が加わり連合軍は完全に包囲される。
そこからはイラメカ軍の一方的な蹂躙であった。連合軍の戦隊は一点突破を狙い砲撃を特定の艦艇に集中させていた。だが旗艦が撃沈されると指揮系統が混乱した為か、それぞれの艦が独自の目標に砲撃をする様になった。
「見たまえローズル、連合の奴らは頭を叩くとそれまでの統率された行動はできない様だぞ。やはり劣等種だな。」
「はい、閣下のおっしゃる通りです。少々呆気ない気がしますが問題はないでしょう。後は殲滅するだけですね。」
「うむ!各艦最大砲撃!連合の劣等種どもを塵一つ残すな!」
更に苛烈な砲撃が連合軍の艦艇に降り注ぎ一隻また一隻と爆沈してゆく。
だがその艦艇には人影はない。艦艇が爆沈する少し前まで、本来なら艦艇に居るべき者達、イラメカの将校が”劣等種”と見下す彼らはバレーヌ星系の連合軍基地にいた。
時折、基地に照査される探索用のレーダーに感知されない様、極力エネルギーの消費を抑え潜伏していたのだ。
照明用の電力さえ落とした艦橋内にオペレーターの声が響く。
「イラメカ軍艦艇のジャンプを確認。」
「……行った様だな。」
キスカはそう呟くと立ち上がり待機していた部下に命令を下す。
「今が脱出の好機である。当初の計画通り暗黒宙域外縁を経て連合方面へ脱出する。サバーブ君、操縦を頼むぞ。」
「アイアイサー!」
かくして守備隊は一人の死人も出す事なくバレーヌ星系を後にした。
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「……と、言う訳で俺たちは無事脱出した訳だ。」
サバーブが連宋やミカエル達にバレーヌ星系脱出時の事を説明し終えた。
「まぁ、その時の功績で一階級特進したし、連合旗艦の操縦士にもなった。これはキスカ提督に引っ張られたと言う面もあるけどね。」
「キスカ提督?」
「ああ、私が大佐まで昇進した様にキスカ提督も上級大将まで昇進されたんだ。守備隊に回された時は“これで引退だ〜。”とか言っていたのだけどね。人生判らない物だよ。」
サバーブはそう言うとコクウの方へ顔を向けた。
「判らないのはコクウ、君だよ。あの時は反対していたと言う事で昇進は無かったが良い部隊に配属されたと聞いていたのだが?」
コクウは捕縛されたままの格好で憎々しげにサバーブを睨み付ける。
「……お前のせいだ……。」
「?」
「お前達がなまじ成功するからそのしわ寄せがこのわしに来たのだ!おかげでわしは無能の烙印を押され八期の任期満了を待たず七期で解雇だ!こうなったのも全てお前達のせいだ!」
連合軍でも星系軍でも十六歳から任期が始まり一期四年の八期が基本である。それが七期というのは途中解雇された事を示していた。
コクウの話を聞いていた連宋は微妙な顔をするとコクウの肩を叩きにっこり笑った。
「それは違う。解雇になったのはおぬしの能力不足だ。」
「ぐっ!……解雇された事もない奴が偉そうに!」
「いや、わし六期で解雇されたのだが?」
「え?何だと?」
「そもそも人のせいにするおぬしに問題がある。」
「……」
コクウは自分より早く解雇されたという連宋の言葉に何も言えなくなった。同じ様に途中解雇されても真面目に過ごしていた連宋の言葉は重いのである。




