いつもの奴はやはりいる
ミカエルのチャリティコンサートはサザンアルプスの首都カラングアにある多目的ホールで大々的に行われる事になっていた。
レルネー1でさえ多目的ホールというと三次元立体映像と音響を駆使した演出が可能であるが、ウエストエンド星系サザンアルプス首都……といっても開拓惑星である。当然、その様な装置は存在しない。あるのはプロジェクションマッピングと360°音響が精々である。
だがそんな場所でも……いや、そんな場所だからこそと言うべきだろうか、毎度おなじみの何時もの連中はやって来る。
チャリティコンサートも大盛況の内に無事終了し撤収準備を始めた時に奴らはやってきた。
連中の姿を見た観客達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ去り遠巻きにこちらの様子をうかがっている。
「どうもこんにちは。こんなドイナカようこそ。海賊です。」
言葉遣いも丁寧で着ている物もサラリーマンスーツ、一見丁よくあるセールスマンに思える。
しかし中身はよくいる普通の海賊なのだ。
その証拠にサラリーマンスーツの後ろから今にも海賊ですと言った格好をした筋肉だるまが光子騎兵銃を構えて立っている。更にその後ろには数十年前の強化防具服が三騎、手に重火器を持ち背中に長柄の格闘武器を装備していた。
「ぐへへへへ。兄貴ィ、あれが今日の目標のミカエルか……。キレイな顔をしていやがるぜ。このまま依頼主に渡すのが惜しいぜ。なぁ、兄貴ィ少し味見しても……。」
「駄目だな。お前が味見するとすぐに壊してしまって商品価値が下がる。……ま、味見するなら俺が先だがな……。」
普通では無く、男色海賊団だった。
「この様なド田舎に護衛も付けずにやってきた迂闊さを呪うのだな。目標以外はいらないな殺ってしまえ。おっと、後ろの車には傷を付けるなよ。あれは俺がもらう。」
「「「「へい、親分。」」」」
どうやらサラリーマン風の男が海賊の親分の様だ。その親分の号令の元、三騎の強化防具服と筋肉だるまが銃口をサバーブ達の方へ向けた。
轟音と共に重火器から当たれば致命傷になる閃光が発射される。
閃光がサバーブ達に当たりそうになった瞬間、球形状の何かに阻まれ霧散した。
「な、何だと!斥力フィールドだと!」
「”護衛を付けない”のでは無く”付ける必要が無い”と言うのが正解なんだけどね。」
驚きのあまり呆然とする海賊の親分に対しサバーブは悠然とした態度を取る。その姿に海賊の親分は歯ぎしりして悔しがった。
「ぐぬぬぬぬぬ。!!連中があの中を移動していると言う事は格闘武器なら効果があるに違いない。お前ら接近戦だ!」
「「「応!」」」
掛け声と共に三騎の強化防具服が急接近する。
しかしその強化防具服の内一騎が何も無い場所から突き出た十文字槍に串刺しとなった。
「げぇ!何かいるぞ!」
「こいつは光学迷彩!何故こんな所に軍の強化防具服がっ!」
光学迷彩を機能させたまま連宋の強化防具服が次の獲物に向かう。
高速移動で土埃が舞い薄らと機体の姿が影の様に見えるが、強化防具服のモニター越しでは視認が難しいのだろう。
急速接近する強化防具服に気づかないままあっさり討ち取られる。
「馬鹿な!旧型とは言え三騎の強化防具服が一瞬だと!」
「うおおおおおおおお!よくも仲間を!ゴロジデヤルゥゥゥゥゥ!」
銃を構えていた筋肉だるまが光子騎兵銃乱射しだした。
斥力フィールドに守られたサバーブ達には効果は無い。しかしいくつかの流れ弾が遠巻きに見ていた観客に命中し被害が出た様だ。
「コロス!コロス!コロ……。」
不意に光子騎兵銃の乱射が止まり、筋肉だるまが上下二つに分かれた。
筋肉だるまの下半身が地面にゆっくりと倒れる中、光学迷彩を解いた連宋の強化防具服が海賊の親分の前で十文字槍を構える。
「悪即断……即ではなかったか……。おいお前、降伏するなら命は取らないぞ。」
「ぐぎぎぎぎ!まだだっ!」
海賊の親分は連宋の乗る強化防具服に向かい掌を突き出す。掌の前には七色の小さな円盤状の物が出現した。




