ウエストランド星系
ウエストランド星系は開拓惑星の一つである。
ただこの星系は開拓の最前線という訳では無く、最初の入植から五十年ほどたった星系である。その為ある程度の秩序は維持されている星系であると言えた。
流彗星号はウエストランド星系にある惑星の一つ、サザンアルプスの宇宙港に着陸し身動きがとれない状態になっていた。
「で、だ……。」
モニター越しに流彗星号の外の様子を見ていたサバーブはハンニバルの方を向いた。
「流彗星号の惑星着陸は問題なかったのですが周囲をこの星の人々に囲まれています。」
サバーブの言うとおり、流彗星号の周りには大勢の人々が集まっていた。宇宙港の展望デッキには横断幕が張られ表面には”歓迎、ミカエル・J・ソーン”と書かれていた。
ミカエルが流彗星号に乗船しサザンアルプスに訪れる事を流した。これは”宇宙のオーロラ”の情報を得る為に考えたのである。
しかし、サバーブは想像よりも多くの人々が集まった事で困惑していた。これはサバーブがミカエルの知名度を甘く見ていた結果でもある。
「……やはり開拓中の惑星だけあって娯楽が少ないのかな?人数が結構集まっている。」
「……Yes、開拓中の惑星には娯楽が少ないからね。この様なチャンスは彼らにとって一生にあるかどうか……。」
「しかし、この人数の中を移動するのか。……惑星の放送局も来ている様だな。」
ため息を吐くサバーブにハンニバルは笑いながら肩を叩く。
「Hey!You!何事もエクスペリエンスね。」
サバーブは始終にこやかなハンニバルの顔を見て再度ため息を吐くのであった。
---------------
今回、ミカエルの乗る車は惑星着陸用の多目的装甲車である。九六式装輪装甲車の様な外見だが中身はご多分に漏れずビィによる魔改造が施されていた。
ミカエルは装甲車の上部ハッチから半身を乗り出し周囲に手を振っている。
「周囲に怪しい人物の影は無し。」
流彗星号のモニターからミカエル達の様子を見ていたリランドが呟く。
現在、装甲車に乗っているのはサバーブ、連宋、ミカエル、ハンニバルの四人でありリランドは留守番となった。
装甲車の乗員にはまだ余裕がありリランドも同行できないわけでは無かったが、留守番という名目で流彗星号に残ったのだ。
「さて、ハンニバルがいなくなった事だし定時連絡だな……。」
流彗星号には部外者であるハンニバルに見せる事の出来ない秘密がいくつかある。その一つが今からリランドが行う定時連絡だ。
リランドは自分のパネルを操作し通信回線を開く。接続先はレルネー1のサリーレ本社だ。
「定時連絡、こちらリランド。本日ウエストランド星系、惑星サザンアルプスに到着。今回の依頼主であるミカエルはチャリティーコンサートを開く模様。」
『こちらキャサリン、了解しました。……驚いたわね、本当にウエストランド星系に繋がっているの?シルビィ?』
『当然じゃ。私の技術は一歩も二歩も進んでおるからな。』
モニター越しに映るキャサリンの隣でビィが胸を張り得意げ場顔をした。
「相変わらずシルビィは元気だな。」
ビィことシルビイの本体、流彗星号のAIはサリーレ本社の新社屋建設と同時に移された。
これはAIのさらなる機能拡張を図る為と流彗星号以外の宇宙船三隻のAIとリンクする為である。
代わりに流彗星号にはシルビィのコピーであるビィ0が、三隻の宇宙船にはビィ1、ビィ2、ビィ3が取り付けられた。
レルネー1にいるキャサリンと通信が繋がっているのもシルビィの機能拡張のおかげである。
「ところで、シルビィ。宇宙のオーロラについてだが……。」
リランドがシルビィに尋ねようとするが間髪を入れずシルビィは拒否した。
『残念だが私にその答えを教える権限がない。』
「なるほど。」
リランドはシルビィの返答から確信をする。
一般的な内容の質問であればシルビィは答えを出す。しかし、シルビイは宇宙のオーロラに関して”教える権限がない”と言った。
リランドにとってこの一言は”宇宙のオーロラ”が異星人関係の遺産であると確信出来る一言であったのだ。




