スターの依頼
サバーブ達三人と固い握手をしたミカエルはサリーレの応接室に通された。サリーレの社屋が新築された事で応接室も広く調度品も格調高い物が備え付けられている。
ミカエルとハンニバルの二人は真新しいソファに腰を下ろすと木製の長テーブルを挟んだ向かい側のソファにサバーブ達三人が腰を下ろす。
サバーブ達が腰を下ろすとハンニバルが開口一番に質問をぶつけてきた。
「失礼ですが、私はあなた方を知りません。あなた方はミカエルとはどの様な関係なのでしょうか?」
ハンニバルの表情は真剣そのもので何時もの口調は何処かに消えている。その表情を見たサバーブも真剣な表情で答えを返した。
「……そうですね。内容を細かく話す事は出来ませんが……。”ミカエルさんがミカエルさんになる為の冒険をサポートした。”と言うところでしょうか。」
「……つまりあなた方は”ミカエルが今のミカエルになる前の姿を知っている。”と言う事だろうか?」
ハンニバルの言葉にサバーブ達は真剣な表情で大きく頷く。どの表情にも他意は無い様に見える。それを見たハンニバルは腕を組み考え込んだ。
(彼らは”内容は詳しく話す事は出来ない”と言っていた。このことから考えてもミカエルを利用する事は考えにくい。)
考え込むハンニバルに対して、隣に座るミカエルは感慨深そうに声を上げた。
「それほど時間は経っていないのに懐かしい気がするよ。なんとか手に入れた中古の格安宇宙船で奇跡の様な冒険……。」
懐かしそうに目を細めるミカエルにサバーブも同意する様に何度も頷く。
「ああ、経験した事のない出来事の連続だった。私もそう思うよ。」
リランドや連宋も頷いているところを見ると同じ様に思い出している様だ。
「そこでだ……。」
「……と言う事は今の話の流れからすると……。」
「うん。君たちに再び仕事を依頼したい。」
ミカエルの言葉にサバーブ達の目が光り身を乗り出す。
「目的地は?」
「前回は銀河外周部の暗黒宙域だったが今回は逆の銀河中心方向、目標は”宇宙のオーロラ”だ。」
探索場所を聞きサバーブは気を引き締めた。
「銀河中心部か……デブリの数は格段に多くなる所だな。それなら腕の良いパイロットは必須ですね。」
サバーブの言葉に連宋も同意する。
「確かにそうだ。当然そのパイロットをサポートするナビゲーターも必要になる。」
リランドは掌に拳をぶつける。
「デブリが多いのなら良からぬ連中も隠れているだろう。そいつに対応出来る奴も必要だ。」
サバーブがリランドと連宋の顔を見回す。
「決まりだな。」
「ああ」「わしに問題は無い。」
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一度決まれば彼らの行動は早い。
慣れないデスクワークの連続だった事が反動になったのか、一週間も経たないうちに全ての用意を済ませてしまった。
サバーブ達は各自の席に座ると各計器のチェックを始めた。
「各計器異常なし、連宋、推進器の調子は?」
「燃料供給良し、内圧正常。問題ない。何時でも発進可能だ。」
火器管制席では武装の可動をチェックしていたリランド声を上げる。
「こちらも異常なしだ。」
三人が忙しそうに宇宙船のチェックを進める中、ミカエルとハンニバルは船橋の入り口に立っていた。
「……ところでYouたち。Meたちは何処に座ればOK?」
ハンニバルは何時もの調子に戻っている様だ。その言葉にサバーブは入り口を振り返る。
「ハンニバルさんは船長席横の貴賓席。ミカエルさんはいつもの船長席ですよ。」
サバーブに船長席を勧められたミカエルは懐かしそうに微笑む。
「船長席か……流彗星号はもう僕の船ではないのに良いのかい?」
「問題ありませんよ。それに……。」
「?」
「ミカエルさんはまだ流彗星号の船長のままですから。」
サバーブはそう答えるとリランドと連宋も当然の様に頷いた。
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ミカエルとハンニバルの二人が座席に着くとサバーブが声をかけた。
「ではミカエル船長、号令をお願いします。」
ミカエルは大きく頷くと船長席から立ち上がり右腕を振る。
「流彗星号発進!目標、銀河中心方向、宇宙のオーロラ!」
「「「了解!」」」
かくしてミカエルの二度目の探索は始まった。




