スターが辺境にやって来た。 その4
港湾局の職員二人、ジェーンとドミニクがサリーレ周辺に訪れた時には道路は足の踏み場が無いほど人の海ができあがっていた。
「なによ!この騒ぎ!……そこ!車道にはみ出さない!」
既にその人数は千人を超している様だった。ジェーンが見ている間にもどんどん人が増えて行く。
ジェーンは通りがかった若い女性に声をかけた。
「そこの君、これは何の集まりなの?」
「えー?おばさん知らないの?ミカエル様よ!ミカエル様が来てるのよ!ほら、これが証拠……。」
その女性は自分の持っていた端末に動画を表示させ男に見せる。動画にはハッキリと軽やかに歩くミカエルの姿が写っていた。
「?えらく綺麗な男?……ミカエル、ミカエル・J・ソーン!!」
ジェーンは驚きのあまり声を上げた。同じように動画を見ていたドミニクの方は悲鳴をあげた。
「せ、先輩、こんなの私たちの手に負えませんよー。」
ジェーンは即座に判断すると本部に応援を求める。動画で見たミカエルが本物なら……いや、偽物であっても混乱は免れないと判断したのだ。
「本部、本部、至急応援を求めます。この人数は我々の手に負えません。」
『ジェーンか、判ってる。応援は間も無く到着する。それよりも人が集まった原因は何だ?』
「ミカエルです!ミカエル・J・ソーンが来ているのです!!」
『何だと!あのミカエルか!!連合内の大スターの!!』
それからの港湾局の対応は早かった。
最初に取った事は隔壁の一部閉鎖である。これによりミカエルの元に駆けつける人々を制限した。
次がコロニー内の全リニアの速度低下。時速50kmまで落とし近距離の移動の影響は少なくする。場所によっては運行自体を停止にした。
「ちょっと!ミカエル様が来ているのにリニアが止まるなんてどう言う事っ!」
「責任者出てこい!」
コロニーのいたる所で騒ぎが起こる。中には駅員に詰め寄る者もいたが大きな混乱や暴動までには至らなかった。
各対応を行った事でレルネー1の管理用AIによる警戒警報は一段階低い警戒注意報に引き下げられた。
まだ完全に事態が収束した訳ではないので予断は許さないが山場を乗り切った事で港湾局のネルソン主任はほっと一息ついた。
「やれやれ、リランドやキャサリンの様な使える人材が辞めた途端にこの騒ぎか……。あいつらに戻ってきて欲しいが上の方がなぁ……。」
今回の騒ぎの一端にリランドが関わっている事をネルソンには想像する事さえできなかった。
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一方、サバーブ達は新人研修の準備や社内の整理、新しく入った輸送船の改造計画など様々な業務に追われていた。
特に輸送船の改造は熱が入り三人が額を突合せながら連日改造計画について熱く語り合っていた。
「……とまぁ、基本にブラジオン型の1.2倍程度の出力で問題は無いだろう。それよりも輸送量だ。」
「輸送量を増やすのはかまわないが武装が貧弱になるのはいただけないな……最低限二門は欲しい。」
「そうなると索敵も考えないと……。」
新しい船を自分たちが一から改造するとなると熱の入りようも変わるらしい。
長い議論に疲れたのかリランドが大きくのびをする。
「やれやれ、大分時間が過ぎたな。……ん?外が騒がしい。何かあるのか?連宋知っているか?」
「嫌わしは知らん。……あ、そう言えば外からの呼び出しが点滅しっぱなしだ。部屋をロックしているからかな?」
「呼び出し?仕方が無い、俺が休憩がてら聞いてこよう。」
そう言ってリランドが扉を開けると、キャサリンが今正にマスターキーで扉を開けようとしていた。
「?どうしたキャサリン?血相変えて?」
「リランド、大変よ!すごい人が来るのよ!」
リランドは首をかしげた。彼にとって最近会ったすごい人と言われるとカークランド提督ぐらいだ。
「提督か?」
「違うわよ!ミカエルよ!ミカエル・J・ソーンが来るのよ!」
「……ミカエル?」
覚えのあるミカエルとキャサリンの言う“すごい人”が重ならずリランドは疑問符を浮かべるのであった。




