スターが辺境にやって来た。 その3
ミカエルが降り立つとそれまで喧噪が嘘の様に静まりかえる。
アバロン号からサリーレまで続く道路に集まったファン達は歩くミカエルの一挙一動を少しでも見逃すまいと固唾をのんで見つめていた。
屈強な男達(ミカエルを守る護衛だろう)が近くに降り立つとミカエルはサリーレへ向かって歩き出した。
しなやかに、軽やかに、踊る様に歩くミカエルが目の前を通り過ぎる。
「きゃー!ミカエル様!」
「すてきー!」
「愛してるぅー!!」
黄色い声が上がり何人かのファンは感極まったのかその場でしゃがみ込んだり失神して後ろに倒れ込んだりしていた。
集まったファンを見たところ女性の数が多く見られるが男性のファンがいない訳ではない。
「すげぇ!あのステップ!」
「キレがありそれでいて優雅!」
「流石ミカエルさん!俺たちに出来ないステップを平然とやってのけるっ!」
「そこに痺れるぅ!」
「憧れるぅ!!」
同じ衣装に身を包んだ五人の少年達がミカエルのステップに驚きの声を上げていた。どうやら彼らはダンスグループの様に見える。
ミカエルは周囲に集まったファンに手を振りながらゆっくりと歩く。中にはミカエルに接触しようと手を伸ばす者もいたが全て周囲の護衛によって阻止された。
時間が経つにつれ集まるファンの数が多くなって行く。
それを見たハンニバルは“あまりにも集まり数が多くなりすぎている”と冷や汗を流す。
丁度その時、港湾局が動いた。
港湾局にミカエルの情報が正しく入っていた訳ではない。動いた理由は単純である。この場所に来る為の交通手段であるリニアの使用率が異常に多かった為、管理用AIが警報を発したからだ。
レルネー1におけるコロニー内の移動は場所や方向によって制限されている。
例えばコロニー内の最高速度は時速60kmになっている。円周に沿って動く場合も同じ最高速度である。
しかし、円筒方向に動く場合の最高速度は時速500kmまで許されている。
これはコロニーが巨大な円筒形の構造物であり、擬似的に重力を発生させる為に廻っている事に起因する。
半径500kmの大きさの構造物が廻っている場合、回転方向と同じ方向へ移動すると速度が増す事になり擬似的な重力が大きくなる。(逆方向だと重力は小さくなる。)
ただそれはコロニーの回転速度によって変わる為、誤差の範囲に収まる速度、時速60kmに制限されているのである。
ミカエルがやってきた事でサリーレの周辺は人口密度が異常に高くなっていた。
高くなったと言ってもこの程度の数の人々が一ヶ所に集まってもコロニーに与える影響は微細なもので誤差の範囲といえる。ただしそれはこの場にいる人々が徒歩で集まった場合である。
今集まっているほとんどの者はリニアを利用して集まった。速度の出るリニアでも利用数が少なければ問題にならない。だが利用者数が多すぎた。しかも現状その利用者は等比級数的に増えていっているのである。
利用者の増加を試算したレルネー1の管理用Alが警戒警報を発令した。人の極端な移動による警報はレルネー1が造られてから初めてのことであった。




