スターの憂鬱
時事系列を間違えてましたごめんなさい。
ミカエル・J・ソーンはスターである。
人目を引く容姿に天使の様な歌声、歌だけでなく踊りも独創的なステップを踏む。
一年前に彗星のごとく登場し、あっという間に太陽系連合内で知らない人はいないと言うぐらいの大スターとなっていた。
そんな彼が所属するのは“レン・ジェンダリー・ミュージック・スタジオ”創設から三百年続く老舗のスタジオである。
ミカエルの現住所はそのスタジオが入るビルの最上階、所謂ペントハウスである。
そのペントハウスでレン・ジェンダリーのチーフプロデュサーであるハンニバル・ショーンはミカエルに詰め寄っていた。
椅子に座るミカエルの前に立ちミカエルに問いかける。
「Hey!ミカエル!どうしたんだ?ここの所のYouはらしくなぁーい。」
「らしく……ない?」
「Yes!最近のYouの作る曲にはパッションがない!それだけでは無ぁーい。最近はYouの歌にもそれが見られない。ここを訪れた当時の輝きは何処へ?」
「輝き……か……。」
そう、ミカエルはここ一月の間、思う様に作曲が出来なくなっていた。
レン・ジェンダリーを訪れた当時は次から次へと曲のフレーズが浮かび上がったのだが最近ではミューズに見放されたかの様に何も浮かんでこなかった。
無理矢理なんとか曲を作ってもハンニバルの言うとおりパッションのない曲、気の抜けたコーラの様な曲しか作る事が出来なかった。
所謂、スランプである。
「才能の枯渇……「No!」」
ぽつりと呟いたミカエルの声をハンニバルは大声で否定した。
「Youはたかだか一年で枯渇する様な歌い手ではありません!」
「だが実際、気の抜けた曲しか作れない……。」
ハンニバルはミカエルの前に跪きそっと手を取る。
「いいえ、Youは今、疲れているのです。思えばYouがデビューしてから休日らしい物はなかった。ここは気分転換の為にも休日を取るべきでしょう。」
「休日ですか。」
「Yes。休日を取って鋭気を養うのです。」
ハンニバルの言葉にミカエルは少し困った様な表情をする。
「Why?どうしましたか?」
「いえ……休日と言っても、何処に行けば良いのか?帝国の人間であった私には思いつく場所が無くて……。」
ミカエルの言葉にハンニバルは天を仰ぐ。
「Oh!忘れていました。そうでした。そうですね……Youは海が好きなら海洋惑星で休日という手もあります。Youは何が好きですか?あ、勿論、歌以外で。」
「歌以外で……。」
ミカエルは腕を組み考え込む。
「……楽しかった事とかでも良いですよ?」
「……。」
ハンニバルの言う楽しかった事を思い出そうとする。
ミカエルの少年時代や青春時代は過酷な労働で摩耗していた。だがそんな中で子供の頃に聞いた宇宙の不思議の話。そしてそれを探索し発見した事を思い出していた。
一癖も二癖もある様に見える連中(実際想像以上であったが)とくぐり抜けた冒険譚。
それを思い出すだけで心の底から何かが浮かび上がるそんな気持ちにさせられ頬が緩む。
(Oh!これは!)
そんなミカエルの表情の変化をハンニバルは見逃さなかった。
「何やらYouには楽しい思い出があるようですね。」
ハンニバルの言葉にミカエルは大きく頷く。
「ええ、レン・ジェンダリーへ来る前にお世話になった人達との思い出が……。」
ハンニバルはミカエルの表情から何か輝く物が零れ出そうな物を感じ取る。
(ミカエルが以前言っていた連中の事か?)
ハンニバルの目が光る。
“その連中がミカエルのスランプ脱出の鍵を握っている。”
直感的にそれが正しい様に思えた。




