挿話:軍曹の日記その3
私の名はスマート・エイブラ。
イラメカ帝国の宇宙軍特殊部隊に所属し強化防護服で戦場を駆けていたのは遠い過去のことだ。この私がレルネー8に収監されて15ヶ月が過ぎようとしていた。
首から下げている仮発行の身分証明書を手に持ちじっと見る。この身分証明書には服役者である事と現在の所属と職業が記載されていた。
私の所属はレルネー8であり職業は……残念ながら?私の職業は軍隊関係の仕事ではない。
現在の私の職業は配達員である。しかも宇宙船を使って他のコロニーへ輸送する業務だ。
服役者なのに宇宙船で移動しても良いのかと思うだろう。
だが私の乗るこの宇宙船にはジャンプドライブは装備されていない。従って他の星系に行くすべはないのである。
それだけではない。例えばこの船を使って他のジャンプドライブが装備されている船を手に入れたとしよう。
他の星系に移ったとしても仮発行されている身分証明書から服役者だと判る。
仮発行の身分証明書さえ無い場合は問答無用で入港禁止だ。無理に入港しようとすると即射殺の運命が待っている。
どうあっても普通に生活する様になっているのだ。
今回の業務はレルネー1の施設に建設用の資材を届ける仕事だ。
レルネー8では服役者の更生の為に職業訓練所があり、実際に服役者が制作した物を売りに出していた。
取り扱う品物は継手、ボルト・ナットなど多岐にわたる。
「オリバー、今回の届け先はレルネー1の何処だ?」
私は入所の時に同じだったオリバーとコンビを組んでいた。少しお調子者だが何故こんな所に収監されているのか不思議な奴だ。
詳しく聞こう考えた事もあったが人にはそれぞれ事情という物があるのだろう。
「確か鋼板、ボルト・ナット、継手……宛先は“株式会社サリーレ”。レルネー1の外れにある会社らしい、それに聞いた事の無い会社だな。」
「聞いた事の無い会社か……外れと言う事は港湾の端と言う事だろう。と言う事は最近出来た会社じゃ無いのか?新興企業でなんとか港を借り受けたと言うところだろう。聞いた事の無い会社だから規模はあまり期待しないでおこうか。」
「違いない。ははははは。」
私とオリバーは笑い合いながら積み荷を納めるべくレルネー1へ急いだ。
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私がレルネー1にある“株式会社サリーレ”へ訪れた時、開いた口が塞がらなかった。
その地点に来るまで端の港をなんとか借り受けた小規模の会社だと思っていた。しかし、実際は想像していた小規模の港を遙かに超える巨大な港だった。
何時までも圧倒されている訳にはいかずなんとか気を取り直す。
「この規模の港を借り受ける会社が今まで無名だったと言う事が信じられないね。」
「会社本社ビルもでかいし船を係留する港もでかい。何でもここに第二の入り口を作る計画もあるぐらいだ。それに旦那、聞いた話だと“株式会社サリーレ”の後ろには”カークランド財閥”がいるらしいですぜ。」
「カークランド財閥か……それならば納得だな。」
私もイラメカ帝国にいた頃聞いた事がある。
カークランドは遺跡によって巨大な富を築きあげたという話だ。それにカークランドの戦場での伝説もその遺跡の力と考えれば納得出来る話だ。
「旦那、あるところにはあるんですね。そう言えばトレーダー支部がここの近くになるって話もあるから真実味がありまずぜ。」
「嘆くな、オリバー。私たちは私たちで地道にやっていくしか無いよ。」
「そうですね……。」
「しかし、ここの会社の連中。工事を業者に任せてどこかに行った様だが何処に行ったのだろうか?」
私の言葉にオリバーが何かを思いついたのか手を叩く。
「あれですよ。カークランド財閥が関わっているのなら、あのリゾート惑星。」
「ああ、あれか。一度は行ってみたい場所だな……。それもこの仕事と言うか刑期が終わってからの話だな。」
私の言葉にオリバーは同意する様に頷く。
「大丈夫でしょ。旦那は真面目におつとめをしていますから通常より早めに出る事が出来ると思うですよ。」
「そんな物かね……。(イラメカではあり得ないが……。)」
私は話半分に聞いていたのだが、本当に刑期が短くなるとはこの時は真面目に考えていなかった。




