待ち伏せ
“流彗星号”が予想外の地点でハイパワージャンプを行ったことで海賊たちの船内は騒然となっていた。
「ば、馬鹿な!!」
「なんであんな場所でジャンプした?星系内だろ?」
「どこだ?どこに向かった?」
大騒ぎしている手下に親分と言われた男が一喝する。
「喧しいぞ、お前ら!」
船内に響き渡る大声のおかげか、あれほど騒いでいた手下たちは皆一斉に黙りこくる。
「……逃げてしまったのは仕方ねぇ。おい、この情報をグランのやつに伝えな。奴なら幾らか回してくれるだろう。」
「で、なんと伝えます?」
親分と言われた男は顎ひげをいじりながら少し考える。
「……首輪のついたうさぎが逃げた、首輪のナンバーは6700。」
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一回目の“ハイパワージャンプ”の終わりと同時にリランドと連宋は席を飛び出していった。
連宋は船内から電波の強く感じられる方向を頼りに捜索、リランドは自前の強化防護服を装備し気密ハッチから宇宙に飛び出した。
「どうだ?電波は出てるか?」
「ああ、ジャンプ後から頻度が早まっている。今は一分間に一回だ。」
「早まった?それは不味いな。」
リランドの頭に最悪の事態が浮かび冷汗が流れる。
「リランド、何が不味いんだ?」
「……発信の頻度が上がったって事は近くに連中が潜んでいる可能性があると言う事だ。ま、ジャンプが行われたら頻度を上げる設定になっているかもしれないが……どの辺りだ?」
「二番通路と三番通路で電波の方角が変わった。おそらくその辺りだ。」
連宋の情報から素早く強化防護服を動かし船外の該当箇所へ移動する。
「二番通路と三番通路……ここか。」
リランドは強化防護服を細かく操作するとゆっくりと外壁に近づく。
「……あった。やはり船外活動用の電源の近くか。偽装も無い様だな。罠もなさそうだ。」
リランドは船橋のサバーブに連絡を入れる。
「サバーブ、見つけたぞ。三番通路の所の電源の近くだ。大きさから見て罠はない。どうする?」
「……リランド、電源を入れたままで移動することができるか?」
「電源を入れたままか……判った、やってみる。」
リランドは強化防護服のマニュピレーターを操作しながら電力供給元である接続部分に強化防護服の電源端子を差し込み接続する。
強化防護服と接続する事によって発信器を移動するつもりの様だ。
「よし、移動できるぞ。サバーブ、どこに移動する?」
「予備の燃料タンクの電源端子に接続してくれ。」
船橋の端末越しにリランドに必要な事柄を伝えると連宋に尋ねた。
「連宋は予備タンクからメインタンクへ燃料をできるだけ移送。移送にかかる時間を教えてくれ。それと予備タンクにどのくらいの燃料があまりそうだ?」
「時間は1時間ぐらいだ。燃料はコンマ6AU(天文単位)分が余るぞ。」
「コンマ6か……そうだな、残りの燃料は1AU分を残し予備タンク部分のカーゴベイを何時でも切り離せる様に準備。」
「なるほど、デコイか。準備が終わり次第、船橋に戻る。」
連宋との通信が切れた船橋でサバーブがひとり呟く。
「……準備が無駄になる事を祈るしか無いな。」
“流彗星号”の次のジャンプ可能地点まではまだ少し距離がある。それまでにやって来るだろう海賊連中からどうやって逃げるかを思案するサバーブだった。




