リゾート惑星
この時代、多くの財閥系企業は福利厚生を兼ねてリゾート惑星と言われるバカンス用の惑星を持つ。
新興財閥として名をはせているカークランド財閥もその例にもれずバカンス用のリゾート惑星、天水分星を所有していた。
天水分星は大きさで言うと地球よりも少し小さいぐらいの惑星であり重力が0.95Gとわずかに地球より弱い。
惑星全球の75%が水域であるが南半球と北半球に大きな大陸を一つずつ、赤道近くに少し小さめの大陸を一つの合計三つの大陸を持つ惑星である。その為、夏期や冬季スポーツを楽しみたい従業員はそれぞれのスポーツが楽しめる南北どちらかの大陸へ行く事が出来た。
サバーブ達一行も天水分星に来ていたが、彼らは従業員とは違う大陸、赤道直下にある少し小さめの大陸に来ていた。
小さいと言っても高い山があるおかげで赤道直下にもかかわらずスキー場がある場所である。
そう、ここはカークランド家自体が所有、管理するプライベート大陸なのである。当然サバーブ達一行がくつろぐ砂浜もプライベートビーチといえる場所なのであった。
この星系の主星である天照星の光が燦々と照りつける中、サバーブ、リランド、連宋は思い思いの格好でビーチチェアに寝そべり何処までも続くコバルトブルーの海を見ている。
彼ら三人は”カークランド提督の救出”を詳しく聞きたいと言う記者から逃げる為にこの惑星に来ていた。
アロハシャツを着たサバーブは手に持った極彩色のドリンクを口にする。そしてポツリと呟く。
「なぁ、リランド。我々は一昨日まで雪山でスキーをしていたよな?」
サバーブの問いにヨットパーカーを羽織り、すっかり日焼けしたリランドが答える。
「そうだな。この星と言うよりこの大陸には高山があるからスキーが出来るという事だ。」
ゆったりとくつろぐ二人の姿を見たTシャツ姿の連宋が今の心境を述べた。
「……このままここに居続けたいという堕落した気分になる。」
少し離れたところに目を向けると大きなビーチパラソルの下に三人の女性と一人の幼児か和気あいあいと交流している。
それを見た連宋がリランドに疑問を投げかけた。
「そう言えばリランド。キャサリンとはどうなっているんだ?」
尋ねられたリランドは先までの姿とはうって変わって挙動不審になる。
「え?あ?ま、まぁ、ぼちぼち、それなりに考えてはいるよ……うん。」
「連宋、そう言えば星系軍を辞めたキャサリンを雇う事にしたと言った時には驚いたよな?」
サバーブの言葉に連宋は大きく頷く。
「いや、あれだ。キャサリンは経理とか出来るからな。俺たちじゃ彼女ほど出来ないからな。うん。そう言う事だよ。」
「そうだね。そう言う事にしておこうか……。」
頷くサバーブにリランドが反撃とばかりに質問を返す。
「そう言うサバーブはアリシア嬢とはどうなんだ?」
「アリシア嬢か……。」
そう言ってサバーブは遠い目をする。
「この間、アリシア嬢に連れられてカークランド提督に面会に行った時だな……。」
「「ふむふむ」」
「“わしはアリシアが生まれた事は知らないし二十年間会う事は出来なかった。だとすれば同じ様な期間、祖父と孫の親交を深めるべきでは無いかと思うのだが……どう思うかね?サバーブ君?”……と言われた。」
「「ああー。(お察し。)」」
「まぁ、提督には今回の件で色々お世話になったし言いたい事も判る。仕方が無いと言えば仕方が無いのだが……。」
実際、カークランド提督には色々骨を折ってもらった。
提督救出の際の記者会見は”業務多忙な為”という理由で提督に任せた。サバーブ達の遺跡宇宙船の隠蔽(通常の宇宙船としている)もカークランド財閥の手配だ。
「……カークランド財閥の被害は人的被害が大きいな。物的被害として大きいのはアリシアの持っていた指輪か……確か遺跡品……ん?」
サバーブはリランドと連宋が生温かい目で見ている事に気がついたのか話を変えようと連宋に話しかけた。
「そう言う連宋はどうなんだ?トレーダー協会のレイチェルさんを連れてくるとは意外だったぞ。」
「トレーダー協会がサリーレの近くにやって来るからね。ご近所付き合いを兼ねて誘っただけだよ。」
「「ほほぅ。」」
何も他意が無い様な言葉を発する連宋をサバーブとリランドの二人が生暖かい目で見る。そんな二人に砂浜の方から声がかかる。
「リランド!」
「サバーブ様!」
赤いビキニが似合うキャサリンと桜色の可憐なワンピースタイプの水着が似合うアリシアの二人だ。
いつの間にか海の近くまで移動して、二人とも大きく手を振って二人を呼んでいる様だ。
「早く行かれた方がよろしいのでは?」
そう言うのは黒いワンピースタイプの水着の似合うレイチェルだ。いつの間にか連宋の隣に腰をかけている。
「「呼ばれたのなら仕方が無い!」」
サバーブとリランドの二人は勢いよく立ち上がると二人がいる海に向かい走り出す。
そんな六人を少し離れた場所でビィ改めシルビィが眺めていた。
「平和ですわー。」
シルビィが呟くそばの端末から今太陽系連合内で大ヒットをしている曲が流れていた。




