責任を取る
キャサリンはリランドと離れ学園の職員室へ出向く。途中、学園の生徒に取り囲まれながらも何とかたどり着いた。
(やれやれ、懐かしい歓待ぶりでした……。)
過ぎた古い記憶を思い出しながら職員室のドアをノックして入室する。
令嬢誘拐という大事件を前に職員室では先生方が慌ただしく動き回り対応に追われている様だった。心配になった生徒の一人が実家に電話をかけた事で話が大きくなっている様だ。
そんな忙しそうにしている先生方の中に学園を案内してくれたメイシーの姿が見えた。
「少しよろしいでしょうか?メイシー先生?」
「……あ、キャサリンさん。どうかしましたか?」
「セリア先生は何処でしょうか?」
「セリア先生?確かその辺りに……。」
メイシーは立ち上がり辺りを見回すがセリアの姿を確認出来なかった。
「いないわね……。誰か?セリア先生を知らない?」
その場に居合わせた先生方の内、何人かは首を振るが一人が声を上げた。
「セリア先生なら教会の方へ出かけるとおっしゃって出かけられましたよ。」
どうやらセリアは教会の方へ出かけた後だった様だ。キャサリンは先生方に礼を述べ教会の方へ向かう。キャサリンが教会を訪れるとセリアが一人、礼拝堂の長椅子に腰をかけ俯いていた。
キャサリンが近づくとセリアは顔を上げる。
「……キャサリンさん。」
セリアは軽く息を吐くと自戒する様に笑った。
「私は……私がいた頃のソロリティは淑女を目指す乙女の集まりと言った学園でした……。」
「……今は違うのですか?」
「同じ……なのですけど、私たちの頃は先生に意見をする事さえしませんでしたし、出来ませんでした。その反面、学園の風紀や秩序は守られ平穏無事な日々を過ごしていたと言えるでしょう。」
「確かに平穏無事だったかもしれません。しかし、それはソロリティの中だけの事です。ここの外の世界はもっと過酷で穏やかとは言いがたい。そして、学園の生徒のほとんどはその過酷な世界に戻らなければいけないのです。」
キャサリンの言葉にセリアは頷く。
「そう、学園の生徒のほとんどは外の過酷な世界に戻ります。ですが、その世界に耐えきれずに学園に戻ってくる生徒も少なからず存在するのです。だから私は生徒達が気兼ねなく戻れる様に穏やかな学園生活を維持したかった……。」
「でも私は失敗した……。いいえ、名家に仕えている執事と言うだけで外部の人間を信頼してしまった。そしてその事が誘拐事件を生み出すことになったのです。」
「ん?」
キャサリンはセリアの言葉に違和感を感じ取った。キャサリンとリランドが学園の会議室を訪れた時、セリアは学園長を糾弾していた。
(確かあの時は“あの様な危険な行事”と言って学園長に詰め寄っていた。誘拐事件では無く行事を承認した事を追求していた。セリア先生はあの時点では本当に誘拐があったとは知らなかった?これは直接尋ねてみるほかは無いのかしら……。)
「セリア先生、セリア先生は会議室で対策を話していた時は誘拐が本物であると知らなかったのでは?」
セリアはキャサリンの顔を見ると一瞬驚いた様な表情を浮かべた。だがそれも束の間のことすぐに元の表情に戻る。
「知らなかったからと言って何になりますか?やってしまった事には必ず責任を取らなくてはならないのです。」
「責任……。」
キャサリンの言葉にセリアは頷く。
「だから私はこの事件の責任……「お待ちなさい!」」
その場に現れた人物がセリアの発した言葉を遮る。
「学園長……。」
「セリアさん。あなたは責任を取ると言っていますが、この学園を去ることは責任を取る事とは言えません。」
学園長の言葉にキャサリンは同意する様に頷く。
「……そうですわ、学園長。セリア先生がここを去るのは責任を果たしたとは言えないのでは無いでしょうか?」
「ええ、その通りです。それに、セリア先生。あなたにはこの学園に残って生徒達を厳しく指導してもらわなくてはなりません。」
「学園長、それでは責任が……。」
「いいえ、セリア先生。残って最後まで指導する。それが責任を取るという事なのです。逃げる事は許しません。」
(この場は学園長に任せれば良いでしょう。)
キャサリンはそう考え教会を後にする。部屋に戻ったキャサリンが見たのは端末の前で頭を抱え真っ青な顔をするリランドの姿だった。




