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拘束された賊達は隣国の者で主な罪状は密輸。以前既に捕まった密輸グループの残党だったらしいです。
「ストレス解消……とまではいかないかな……」
先程のでもう少し動きたくなった私は砦の私室へ向かい動きやすい格好に着替えて外へ向かいます。
「あれ? お嬢じゃん!?」
気軽に声を掛けて来たのは辺境の兵士団副団長のシリル・エイトル。軟派な雰囲気そのままに軟派野郎らしいけど実力はお父様もお兄様も認めている人物です。
幼少時からの知り合いなので気安い関係でもあります。
「あら、シリル久しぶり」
「久しぶりだね、どうしたの?」
「暫くコッチに戻って来てるのよ」
「へぇ! あれ? じゃあアイツも?」
「アイツ? あぁ、フレディ? フレディは王都よ?」
「お嬢一人で帰って来たの? 珍しい事もあるもんだ」
確かにそうですね、辺境に帰る時はフレディも一緒に帰って来ています。
「まあ、そうね。たまにはね」
「何、喧嘩でもした?」
そのニヤついた顔をおやめなさいな。
「してないわよ? それよりもシリルは何やってるの?」
「オレ? 今日はもう上がりだから戻って飲み……」
「あら、丁度いいわ。体動かしたいから付き合ってくれる?」
「──。了解ッス」
一瞬イヤな顔をしたのは見逃さないですよ?
───キンカンキキンッ
訓練所に響く剣の音は止まる事も無く永遠に続くのではないかという錯覚さえ覚えさせます。
ギャラリーが増え始め周囲を埋め尽くしていきました。
「今回はどっちだと思う?」
「流石に副団長だろ? ルイーズ様は王都で……」
「分かんないぜ? ルイーズ様だよ?」
「そうだよな……ルイーズ様だもんな」
「剣姫様は健在だな……」
キィーンッ
ギャラリーがワッと沸きました。
「──参りました」
「──シリル、手抜きしないでよね」
「ふぅ……してないって、オレ勤務後よ?」
「十分だったら負けって事か……鈍ってるなぁ」
「お嬢……レディなんだから……」
ギャラリーもワイワイと騒いでいます。
「でもシリルのお陰でストレス解消になったわ」
「──それはそれは、良かったネ」
「ルイーズ様! 次は私と!」
「私ともお願いします!」
兵士の皆さんが声を上げて運動不足解消の手助けをしてくれるようです。
ありがたい事です。
私のストレス解消法はとにかく体を動かす事。剣を振る事ができるならそれが一番です。
昔から何かあると兵士さん達と一緒に剣を振ったものです。
「うん、じゃあ皆よろしくお願いします!」
その日は遅くまで剣の撃ち合う音が響き渡っていました。
◇◇◇
思う存分体を動かして訓練を終えクールダウンの為に座ってストレッチをしていると、シリルが少し言いにくそうな顔をして話しかけてきました。
「──お嬢さ、アイツと何かあったの?」
「え?」
「てか、学園の噂はホントなの?」
「噂って……」
「何か一人の子が……てやつ。アイツもそっちに行ったって」
「ああ、それね。まあ……そうね」
「───!! お嬢はそれでいいのかよ!?」
のらりくらりが代名詞のシリルにしては珍しく声を荒げてきました。
「それでいいって?」
「──アイツ、お嬢の事大切にするって…」
「あーシリル、それは大切にされているわよ?」
「──だったら!!」
「おーい、シリルちょっと」
声を掛けてくれたのは熊のような大きな体で坊主頭の兵士団団長のコーエン。
「──団長なんすか?」
「アル様が呼んでたぞー」
「アル様が?」
「早く言って来い」
舌打ちをしてシリルは立ち上がり「お嬢、また後で」と言って去っていきました。
その背中にヒラヒラと手を振り団長にお礼を言います。
「コーエン団長ありがとう」
「お嬢も大変だぁな。ココで剣振ってられたら幸せなのにな」
「あら? 王都も楽しいし私は幸せよ?」
「そうかね? クク、フレ坊もなぁ……このままだとシリルが喜んじまうぜ?」
困ったような顔になってしまったかもしれませんが、まあそれも仕方ない事でしょうか。
「じゃあ、私も行きますね。次はコーエンおじも手合わせしてよ?」
「ハッハッ。喜んで。じゃあな!」
巨体を揺らしながらコーエンおじは去って行きました。
さて、屋敷に戻りましょうか。
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