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それからと言うもの、何かと難癖を付けてはベスの元へとやってくる殿下とかのご令嬢達に辟易しながらも時は過ぎていきました。
いつものように夕食後お茶をしていると隣に座っていたフレディが恐る恐ると言った感じで話しかけてきました。
「ルー? 何か怒ってる?」
「──え? 怒ってなんて……いないわよ?」
「怒ってるよね? オレ何かした?」
フレディは何もしていないのです。
フレディ本人は。
かのご令嬢はフレディの事も遅まきながらロックオンしたらしくウロチョロと視界に入って来るようになったのです。
「──そうね、強いて言えば存在かしら」
「──っえ!? ルーなんで? オレ?」
あらあら、フレディが泣きそうになってしまいました。
「フレディの事じゃないわよ」
「──っはぁ、良かった」
ギュムッと抱きしめられてぐすっと鼻を鳴らすフレディの背中をポンポンと叩くと少し落ち着いたのか、顔を見合わせてきました。
「オレはルーだけだからねっ!! 何があってもルーだけ! 信じていてね!」
「ふふ、そうね。分かっているわ」
ジム……ジェイムズ殿下の事はそろそろ本気で何とかしないと、ただの害悪になりかねません。もうすでになっているかもしれませんが。
かのご令嬢もそろそろ……ね。
「ルー、大丈夫だから。オレ達に任せておいてね?」
「そう? …… 」
フレディはそう言うと頬に唇を寄せて帰って行きました。
◇◇◇
翌日からは学園でフレディの姿をあまり見なくなり必然的にかのご令嬢の姿を見かける事も減っていました。
ただ酷い噂が流れ始めていたのです。
フレディとかのご令嬢が一緒に食事をしていた。
フレディとかのご令嬢が一緒に歩いていた。
フレディとかのご令嬢が一緒に座っていた……。
フレディがかのご令嬢に落とされた……と。
成る程そうきますか。
フレディは昨日、自分を信じてくれと言っていました。
ですので私はフレデリック・ルフェーブルを、自分の婚約者様を信じようと思います。
それでも私もやはりただの人。
気になりますしそんな噂にも腹が立ちます。
ある日、フレディとかのご令嬢が対面から歩いてくるのが見えました。
目を見開き驚いた様子のフレディは流石でしたね、すぐに表情を取り繕い一切の動揺は見られませんでした。
かのご令嬢は勝ち誇ったような表情をされておりましたが。
通り過ぎる瞬間に私は彼らにチラリと視線を送り無意識に声を掛けていました
「フレディ、何か言う事は?」
「──特に……」
「──そう。わかったわ。じゃあね」
私は視線を外すと振り返りもせずに通り過ぎました。
通り過ぎた後ろから、かのご令嬢の声が聞こえてきました。
「フレディ大丈夫? ルー様って怖いね……大丈夫だよ! 私が付いてるから!」
ククッと知らず知らず笑いがこみ上げていました。
フレデリックの心変わりは瞬く間に学園内を駆け回り本人達をを差し置いて噂話が先行して行ったのです。
「ルー!!」
「あら、ベス。今日は王宮ではなかった?」
「そんなの! ルーよりも大切な事ではないわ!」
嬉しい事を言ってくれますね。
「アイツももっと……」
「──ベス? なんて言ったの?」
「あ、何でもないの。それよりフレディの噂……」
「あら、噂も何もあの二人が一緒に居る時にすれ違ったわよ? それに何も言われなかったわ」
「───っ。でも! フレディの事……」
「──そうね、少し考えようと思うわ。だって幼少の頃から変わらずここまできたけれど、人の気持ちは変わるものだからね」
「ルー……」
「あ、いいのよ? 大丈夫だから。私も二人を見てね思ったのよね、他に目を向ける事も大切かもって」
「ルー!!」
「だって、そう思わない? ベスだって……ねえ」
「──はぁ。わかったわ。もう何も言わない」
私はニコリと笑ってカップを傾けました。
この騒動もいつになったら治められるのかわからないまま月日は無駄に流れていきました。
同じように私とフレディも会う事は無くなっていきました。
私は実家へとペンを走らせ一度戻る旨を伝えました。
「ルー!! 実家に戻るって……」
「あらベス、後で話そうと思っていたのよ?」
「いつ行くの? そしていつ帰って来るの?」
「行くのはすぐよ? ……そうね、卒業パーティーまでには戻るわ」
「──フレディには?」
「特に何も? それでいいのよ」
「……分かったわ。早く戻ってね」
「はいはい。じゃあね、ベス」
少し寂しそうなベスを抱きしめて、出発の支度をします。
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