17.オレの婚約者様
その日オレはとにかく情報と証言者の裏ドリ、徹底的に洗い直し貴族様達の中での流通経路や関係性、覆さないような確実な証拠を揃えた。
そして馬に飛び乗り愛しのルーの元へと走り1日だけ宿屋に泊まりそれ以外は野宿、そして馬を休ませつつルーの実家へと急いだ。
急ぐ理由はただ一つ。
あの男にルーを奪われたくないから。
あの男、何食わぬ顔でルーの内側にスルリと入り込んでかなり上位にいるんだ。
辺境伯兵師団副隊長シリル・エイトル
元々コーエン団長の知り合いの息子らしく能力も高いしスタイルも顔面偏差値も高い。
ルーの事を狙っている一人だと思う。
オレがヘタこけばすぐに後釜を狙う奴らは多い、シリルはその筆頭だろう。お義父様の覚えも良いし……そりゃあ王都に嫁に出すより辺境の地で近くに住んでもらった方が良いに決まってる。
オレはルーが嫌がってもオレに縛り付けてやる!!
だから、オレは全てを片付けてやれる事をやって王都を飛び出した。
馬を走らせ休みながらも愛しのルーの元へとヘトヘトになりながらやっとの事で到着し、メルベルク辺境伯、夫人に挨拶もそこそこにルーの元へと急いだ。
そうしたら案の定だよ!!
シリルがルーを口説いていた。
「──もしお嬢が戻ってくるなら……オレが…」
「オレが……何だ? シリル」
腕を組んで扉に寄り掛かって切れる息を無理矢理落ち着かせて声を発するとルーが振り返った。
ああ!! ルー!! オレの愛しのルー!!
フワリと香るルーのいい匂いが堪らない。
「──あらフレディ。来たの?」
冷たい!! でもそんなルーが好き!!
「──ルー! そんなつれない感じで言わないで!」
「ッチ。なんだお前も来たのかよ……」
「来ちゃ行けないか? オレはルーの婚約者だよ?」
「お嬢の事大切に出来ないようなやり方でしか動けない奴にはお嬢を渡したくないね!」
「───それは……」
「ほら、そんな風にしか出来ないんだろ? だったらここで剣降ってた方がお嬢らしく生きられる」
「─── っっ」
痛い所を突いてきやがる。くそっ!!
分かってる、分かってるんだ!! 今回の件は後手に回りすぎた!!
それに……ルーがココに居る時の方がそりゃあ生き生きとしてる事だって……
はぁ、とルーが溜息を吐いた。
「──シリル、勝手な事言わないでくれる? どこでだって私は私らしく生きるわよ。フレディもそこで言葉に詰まらないでちょうだい」
「ルー……ごめん。本当に色々ごめんなさい」
「お嬢……」
オレはルーに近寄りフワリと抱きしめた。
スンスンとルーの首元の匂いを嗅いでやっと安心できた。
シリルはそれを見てはぁと溜息を吐いてヒラヒラと手を振って部屋を出て行った。
「──終わったの?」
「下準備はね……ルー会いたかった……」
ルーを抱きしめたまま大きく息を吐き、髪に顔を埋めると「もう離れ離れは嫌だ……」と勝手に声が漏れてしまった。
そんなオレをルーはポンポンと背中をさすって抱きしめ返してくれた。頬にキスを落とすと見つめ返してくれる。
「ルー。もう離さないからね。こんなのもう二度とやらない」
真剣な顔で宣言するとルーの綺麗な形のおでこにキスをして最後に唇に軽くキスをすると、もう一度ギュッと抱きしめた。
もう手放さないしルーの側から離れない!!
ルーはフフッと笑ってくれて、帰るか泊まるかを聞いてくれた。本当はすぐにでも王都に戻りたい気分だったけど、強行して来たツケが回ってきたのか身体が言う事をきかない。半分寝た状態でルーにベッドに連れて行ってもらった。
何日かぶりのおやすみのキスを……覚えていない!! ショック!!
翌朝は朝一からシリルに叩き起こされて一緒に朝の訓練……皆代わる代わるやってきては手合わせしてくる。
見慣れない四人組も居た。彼等はルー預かりだって、て事は何かしらある奴らって事だな。まだまだ荒削りだけどどちらかと言うと裏方の動き方だな、という印象を受けた。
シリルは執拗に本気で挑んできやがる。
万全だったら五分もしくは6:4でシリルが勝つくらいのレベル差だけど、ヘロヘロのオレは散々やられた。
最後はコーエン団長まで出てくるんだよ。ひどい……。
そんな時でもルーは楽しそうに一緒になって重い木刀を振り回して四人組を鍛えていた。
汗を拭うルーの姿は美しい……
何人の男どもが喉を鳴らした事か……ジロリと睨んでも野郎どもは、ヘとも思ってないんだ。
ルーが選んだ男だから……仕方無しに預けてるっていうのがヒシヒシと伝わってくる。
そんなのでもオレは構わない。
ルーが選んでくれたのはオレ!!
羨ましいだろー!!
それだけでオレは生きていけるんだから!!
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