15.オレの婚約者様
高等部3年に上る年、大きな問題も無く過ごしていたのだけどトラブルが起き始めたんだ。
新入生のスザンヌ・マリオエラ子爵令嬢。
この女が問題を起こしまくった。とにかく男との距離が近い。それまで紳士淑女はこうあれ、という教育の元育ってきた奴らにとって子爵令嬢のボディタッチや甘い囁きは秒で陥落って感じだった。
奴らには婚約者も居たしその婚約者達からも注意されていたけど、奴らの行為はエスカレートしていった。
子爵令嬢は側から見たら非常に分かりやすく高位貴族に擦り寄り、中位・下位貴族には目もくれなかった。平民に対しては態度が悪いまであった。
そんな風だから、孤立はしていくよな。
ジムに手を出して来た時にはさすがにジムに注意したし、ベスだって何度も苦言を呈していた。
……その少し前、ジムの側近達に子爵令嬢の息がかかって来た時くらいだったかな?
王宮から呼び出しがあって向かったんだ。
謁見の間ではなく、王達の居住スペースの方に通されたオレは何かヤバイ匂いがプンプンして来ててやっぱりな……という感じだった。
その時の呼び出し相手は第二王子のグレンだった。
この腹黒王子に関わると面倒くさい事が起きる。だけど話を聞くと自分が掴んでいた情報よりも更に危険な状態になっていたんだ。
「フレディ、例の子爵令嬢に近付いてサプリメントを手に入れてくれないか?」
目眩がした。
なんでオレがルー以外の女に近付かなくちゃいけないんだ!!
即答で「え? イヤです」と答えたら、大笑いされたけどね。
「これが上手くいかないとルーとは卒業後結婚できないよ?」
なんて脅されてさ仕方ないよね……
ルーはオレが何も言わなくても多分今この現状を正しく理解していると思うんだ。
仕方ない。ルーと結婚する為だ。と腹を括って少しだけ手を貸す事にした。
それから少しするとジムはあの女に陥落されたようだ。
何なんだ?あのサプリメント媚薬も入っているのか?
気持ち悪い。
あの女の匂いも何もかもが気持ち悪い。
ルーに会いたい。ルーの首に顔を埋めて思いっきり匂いを嗅ぎたい。
あのしなやかな身体を思いっきり抱きしめたい。
ある日あの女がルーとベスのノンビリタイムにジム達を引き連れて囲んでいると同級生が教えてくれて急いでカフェテラスへと向かった。
最近のベスは王宮でジムの代わりに色々とフォローしていて忙しく、ルーと久しぶりにゆっくりしている所だった筈だ。
ヤバイヤバイ。
何より大切にしているベスに対しての奴らの行動にルーは静かに怒っているんだから。
前にベスの鞄に水を入れたバカの事をルーは徹底的に調べ上げていた。
学園中の人に話を聞いて。
ルーは自分の懐に入れた人を傷つけたりする人やモノを決して許さない。
鞄に水を入れたのはバカ女だとすぐに分かったがルーは調べるのをやめなかった。
それはバカ女の家と商会の繋がりや巷に流行っている例のサプリメントの流通経路など多岐に渡っていた。
ルーの情報網を侮ってはいけない。
オレは侮ってなんていないけどね。
この学園の2大スターだから。少し憂いを帯びた表情をすれば勝手に動く人が多い事。
膨大な書類を手にさてどうする? とベスに伝えた時のルーの表情はあの女を断罪するのは容易い事だと雄弁に物語っていた。
オレ達に話を通してくれたのは、王宮側でも動いているのでしょう? 勝手に動くことはしないけどどうする? と伺ってくれたからだ。
勿論、今回は目を瞑ってくれと頼んだ。
ルーはその書類をじゃあどうぞ、と使ってくれと渡してくれた。
ルーはオレ達の事を考えて引いてくれたんだ。なのに今またこの状況だ。ルーとベスの二人の時間を邪魔された怒りにルーの後ろにはブリザードが吹き荒れている。
タイミングが悪い。
急いでカフェへ向かいジムを諫めて事なきを得た。
ベスも上手くフォローしてくれてルーのブリザードは消えた。
だけどそれだけで事は済まなかった。
奴らは事あるごとにベスに難癖を付けに来る。ルーもしばしばそれに巻き込まれた。
ルーの機嫌は急降下。
オレは日課であるルーの家へ行くと、今日は何故かオレに対しても冷たい態度を取るんだ。
ルーは怒っている。
あの女の存在を。
自分の周りをチラチラとするその存在を消したくて仕方ないといった状態にまで来ていた。
その頃再び王宮に呼び出されたオレは第二王子にプレッシャーをかけられていた事もあって、早急に動く事に決めた。
嫌だけど、嫌だけど───!!
仕方なくあの女に近付いてサプリメントを手に入れるんだ。
ルー以外の女の匂いが自分に付く気分の悪さとルーとの結婚を秤にかけてオレは目を瞑った。
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