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「ハイデロ商会がどうしたというのだ!!」
「───ジェイムズ…… 」
かのご令嬢は真っ青になって震えながらジムにしなだれ掛かりました。
周囲も「ハイデロ商会?」「何?」等ザワザワとしています。
ハイデロ商会は最近急に頭角を表して来た商会です。
王宮にも出入りを始めていてジムが紹介したと言われているらしいです。
扱うものは主に貴族向けの宝石やドレス等。
そして……。
「ハイデロ商会は最近になって急に頭角を表して来ました。まあ殿下が王宮に持ち込んだ商会という事で上位貴族の一部が懇意にしています」
「──それの何がいけないのだ。オレはいいと思った物を皆に紹介しただけだ」
「──それだけなら良かったのですけどね」
「───!」
「……どういう意味だ?」
ジムは訳が分からないという表情で顔色が悪く、側近達も同じような表情をしていました。
ただ、かのご令嬢だけが細かく震えています。
「最近、下位貴族の中におかしな言動を繰り返す者が数名出てきたという案件が上がりました。殿下それはご存知ですか?」
「─── 」
「王宮内では周知の事実です」
「──っそれは!」
「そして、中位・上位貴族達にもそういう人物が出てきているのです」
そうなのですよね、王宮内では周知の事実。
最近フレディもベスも忙しかったのはこれもあったからです。
ジムにも何度か話をしに行っていたと思うのですが、本人は初耳みたいですね。
周囲の人々も「知ってる?」「噂程度には……」とザワザワしています。
チラリと出入り口を確認すると出て行きたい親世代の人、数名と扉を閉ざした王宮騎士団の弾競り合いが行われていました。
「王宮内への勤務の者には全員を様々な検査、聞き取り調査、健康診断を行い一つの事が浮上してきたのです……」
「───。」
「───それはある商会が流行らせたサプリメント」
「それがどうしたんだって言うのだ!!」
「ジム! ここまで言っても分からないのか!!」
あら珍しい、フレディが怒る事なんていつぶりでしょうか。
ジムより周りの子息達の顔色が青を通り越して白になってきていますね。
何か思い当たる節でもあるのでしょうね。
「──っっ……ハイデロ商会は……オレが王宮に……」
「そうですね、ハイデロ商会が普通の商会で配っていた物がただのサプリメントだったら……問題は無かったでしょう……」
「──っっ」
「流石に……もう分かりましたか?」
「──アレが……おかしな言動……?」
「……そうです。調べたら全員があのサプリメントを摂取していました」
ハイデロ商会は初めにドレスや宝石を、それにオマケと称してサプリメントをプレゼントしていたそうです。
そのサプリメントは肌艶が良くなる、ダイエットに良く効く、頭がスッキリする、あまり寝なくても元気でいられる、といった効能を掲げていたそうです。
実際に摂取し始めはそのような効能が出るらしいのです。だから常用性が高く毎日のように摂取する事で、そのサプリメントが無いとダメな身体になっていく……という恐ろしいサプリメントでした。
価格も始めは無料、それから少しずつ値段が上がって行くのです。
上位貴族は金で物を言わせ、中位貴族は下位貴族や少し裕福な平民を紹介する事で安く購入できるというシステムでした。
中毒性が高いので面白いようにそのシステムで客は付き薬物中毒のような人が増えていったのです。
このサプリメント、私が辺境で捕まえた彼等の仲間が捌いていた物で隣国が流して来ていた物でした。
それを口添えしたのが……
「……マリオエラ子爵が裏で手を回してハイデロ商会と組んでいたそうですよ?」
「───スージーの……?」
「──っっ私は! そんな事知らな…」
「ジェイムズ殿下始め側近達に近付いてサプリメントを配っていたのはマリオエラ子爵令嬢、貴方ですよね?」
「──っっ違」
「貴方は厳しい世界で生きている彼等の心の隙を突いて天真爛漫を装い貴族令嬢らしからぬ態度……主に……身体を使っ」
「ヒドイッ!!」
フレディに掴みかからんばかりにかのご令嬢が叫びました。
「私はそんなつもりじゃっ!! ジム!! 何とか言って……」
「──っそ、そうだ! スージーとオレはそんな」
ギャラリーは、え? どういう事? 等とザワザワとしています。
「──ジム、毎日マリオエラ子爵令嬢から貰ったサプリメントを飲んでいるのではないか?」
「そっそれは、確かに飲んでいる。だがオレはそんなおかしな言動なんて……」
「マリオエラ子爵令嬢から言われた事を調べもせずに全て鵜呑みにして、本当に起きた出来事なのかも定かではない事を糾弾する事はおかしくは無い?」
「───っっ」
ジムは私とはソリが合いませんでしたが、元々は努力の人だったと記憶しております。
ベスと共に勉強を頑張ったりしていた姿はよく見ていましたから覚えております。
試験での順位を競ったりもしていました。人に負けないようにとジムは必死に頑張っていたのです。それでも1位を取れる事はなかったですが、それでもトップ4には入っていたのに……
この半年ばかりで全ては水の泡……。
初めの頃は節度のある関係だったと思われます。やはり、王宮に入り込もうと思うと慎重に事を運んだのでしょう。
始めは側近達を陥落していったのですから。
「殿下の側近達もサプリメントは常用しているな?」
「それがどうしたんだ! フレディこそ何度か飲んでいるのを見たぞ!!」
「そ、そうだ!」
「それはサンプルとして持ち帰る為です。顧客にならなければ手に入らないサプリメントを手に入れる為に、殿下達、マリオエラ子爵令嬢に近付き懇意なフリをしました。そして手に入れたサプリメントは飲むフリをして持ち帰って王宮医師団に提出して調べてもらっていたのです」
「──っ! フレディ私を騙したの!?」
「騙したも何も、元々学園内での薬の流出ルートを追っていたら貴方に突き当たっただけですが?」
「な! ルー様より私を選んだん」
「気分の悪い事を言わないでくれますか? ただの演技ですよ。私は私の全てをルーに捧げておりますから」
えーと、ここでそのセリフはいらないんじゃないですか?
読んで頂きありがとうございます!!