なにもない男
「スキルが何もないのか?!」
王が驚いたようにきく。
目の前のステータス欄には「スキルなし」と書かれている。
「‥正直に申せ。スキルなしなど聞いたことない。ステータスにも偽りはないか」
平凡なステータス値、スキルなし。何度見ても変わりはない。
「はい‥なんか‥何もないんだと思います」
異世界に召喚されて、一から人生をスタートできると思っていた。従業員や友人に裏切られて事業に失敗し、借金300万を抱えた挙句、妻と子供にも逃げられた俺は異世界と言うものに憧れを抱いていた。
ほんの数分前まではドキドキしていたのに、もう現実世界と変わらぬ心境になっている。
「もうどうでもいい」
ここでも俺は何もかもうまくいかない人生を送るのだ。
「やむを得ん。マリオ‥お前に任せる」
白髪オールバックに黒い鎧に身を包んだ男が目の前にくる。「行こうか」
行こうか?ふざけるな。なんの説明も無しに召喚し、呆れ顔しながらどこか連れて行くのか?マリオという老兵のステータスを見る。レベルが78、ステータスも俺の10倍以上。スキルも‥なんだか凄いのが並んでいる。
マリオに腕を掴まれる。
ん?待てよ?
「ま、まってください!俺もレベルを上げれば‥」
「小童が!!」
腕が千切れそうなくらい引っ張られる。そのまま俺の身体は宙に浮き、恐ろしいスピードで飛ばされた。
目が覚めるとベットの上に寝ていた。部活の寮の様な2段ベッドが2つある狭い部屋だ。何が何だか分からず起き上がろうとする。
「いっ!、、、」身体を動かすと痛みを感じる。
「おっ、起きたか?」2段ベッドの上から声がする。
「まぁまだ寝てろや。お前のお陰で休めてんだ」男が上から顔を出す。年は20代後半ってところだろうか?
「あんた転生者なんだって?なのにこんなところに配属されて大変だな」
「ここは?、、どこなんですか?」
男は2段ベッドから飛び降りる。
「俺たちゃプルアだ。ここは俺たちの寮」
セルジュという男が言うには「プルア」は国が抱えている労働者達の総称らしい。国が抱えているといえば聞こえはいいが、集められているのは借金で首が回らなくなったものや、身体障害があるものなど、自力で生計が立てられないものばかりらしい。
働きさえすれば飯も宿も確保できるが、プルアに入れられた時点でプルアを抜ける方法はないらしく、働いて働いて死んでいくほか未来はないと言う。
「今日はお前の監視が俺の仕事。ありがてぇなこんなので」
「普段はどんな仕事をしているんですか?」