幼馴染メイドを救うのは幼馴染の僕しかいないらしい③
「祐介……」
幸奈は驚いているようだった。そりゃ、当然だよな。僕だって、なんでこんなことしてるんだって驚いてんだから。
でも、幸奈が泣きそうになってるのを見るのが嫌で気づいたら動いてたんだからしょうがない。もう、あとには引かない。
「尾山! また、姫宮さんにちょっかいだして。俺との約束はどうなってんだよ」
これが、ちょっかいに見えるなら包村の目と頭腐ってんな。
「お前が尾山か。なに急に出てきて告白の邪魔してくれてんだ!」
「うるさい。お前の告白はもう終わってる。幸奈はちゃんと断っただろ。しつこい男は嫌われるぞ」
せっかくのイケメンなんだから自分の評価を下げることはするなよ。もったいない。
「おい、俺を無視するな。姫宮さんは俺が助けるんだ」
「お前だってうるさい。幸奈が嫌がってたの気づかなかったのか?」
約束を破ったことと無視したことに怒った包村が怒鳴ってくるけどうるさくて仕方がない。
「ひ、姫宮さん。嫌だった……?」
確認するようにたどたどしい包村。
幸奈は僕の後ろに隠れると小さく首を縦に振っていた。
それを見た包村は俯きながら小さく『ごめん』と口にしていた。
「幸奈、かえ――」
「尾山。お前こそ、そんなことして姫宮さん嫌がってんじゃないのかよ。この前、噂されてたからって彼氏気取りかよ!」
僕は呆れて吉野を見た。見た目はイケメンでも中身は最悪……やっぱり、人は見た目より中身が大事だ。
「そんなこと思ってない。僕は彼氏でもなんでもないんだから。でも、少なくともここにいる誰よりも幸奈のことを分かってるつもりだ」
「はぁ? 意味分かんねー。ストーカーかよ」
「別に、それでもいいよ。でも、幸奈にはもう近づくな」
「そんなの関係ないお前に言われる筋合いなんかないだろ。俺は諦めないぞ」
「関係ある。僕と幸奈は幼馴染だ。だから、大事な幼馴染にお前みたいなのが近づかれると困るんだよ」
僕は幸奈のカバンを持ち上げるとあいているもう片方の手で幸奈の手を掴んだ。
「帰るぞ」
「ちょっと待――」
「ひとつだけ言っとくけど……次、幸奈を泣かしてみろ。許さないぞ」
それだけを言い残すと幸奈を連れて学校を出た。
うーん……どうすっかなぁ。幸奈を連れてこれたのはいいとして……このまま帰るべきなのか……元気づけるためにラーメンでも食べに行った方がいいのか……。
幸奈は黙ったままずっとついてくるだけだった。元気がない時の小さな歩幅。僕は手を離さないようにそれに合わせてゆっくり歩いた。
そう言えば、昔もこんなことあったような気がする。と、考えていると公園を発見した。
「ちょっと休んでくか?」
幸奈を見るとコクンと頷いたので中に入った。そして、ベンチに座って休ませた。
僕も隣に座る。無言のまま、何も話さない。だけど、どういうわけか繋いでいる手を離そうとしても幸奈からの強い力で逃がせてもらえなかった。
もう少し繋いでたいってことか……って、んなことないか。不安だから、何かして気を紛らわせたいってことなんだろう。
「あー……モテるってのも大変だな」
他に気の利いたことは言えないのかよ! って思うけど、こーいう時、なんて言えばいいんだ?
「……祐介」
「ん?」
「上書きして」
そう言って幸奈は僕に腕を出してきた。繋いでいた手も離して、両腕を突き出してくる。
上書きって……。
「握ればいいのか?」
頷く幸奈。俯いているから何を思ってるのか見えない。けど、身体は小さく震えていて、怖かったんだということが分かった。
「私、汚された……。だから、祐介に上書きしてほしいの。お願い……」
「今更だけど……その、僕は大丈夫なのか? 手とか肩とか触ってしまったけど……本当に嫌なら水道あるし洗いに行くか?」
「ううん、祐介は良いの。特別枠って言ったでしょ。だから、早くして……」
僕は幸奈の両腕を両手で優しく握った。直に伝わる柔らかい感触。さっきもそうだったけど、肩も手も腕も色々と柔らかいんだな……。って、こんな気持ち抱いてたらダメだ。
すると、幸奈は今まで我慢してたのか涙をポタポタと落とし始めた。
「ごめん……ごめんね、祐介」
「なんで、僕に謝るんだよ……。幸奈が謝る必要なんてないだろ」
「うん、だけど……」
言葉が出ないのか黙ってしまった幸奈。
いつにもまして弱々しい幸奈を見ているのは気が引けた。
こんなことになったのも僕のせいなんだよな。僕がとっとと止めに入ってたらこんなことにはならなかったかもしれないのに。
「ごめんな。僕がとっとと止めにいけば良かったのに……」
「ううん、祐介きてくれたから……」
それでも泣き続ける幸奈。
僕の手は勝手に伸びて、幸奈の頭の上に置かれていた。そして、優しく撫でていた。
裸を見て泣かせちゃった時は出来なかったけど、今くらいならいいよな。特別枠だし、許可も出てるんだ。それに、怒られるなら怒られてもいい。幸奈が元気になれるなら。
にしても、これも、昔にもあったような気がするんだよな。ずっと、昔もこうやって幸奈の頭を――。
「……祐介」
「な、なに?」
「気持ちいい。祐介に頭撫でられるの」
「そ、そっか……」
良かった……一先ず、お咎めはないらしい。
「痛かったり嫌だったら言えよ。やめるから」
「ううん、そんなことない。だから、続けて……」
「仰せのままに」
僕は頭を撫でるのを続けた。
その間、幸奈はずっと『ごめん』と謝り続けていたけどもう何も言わなかった。黙って側でこうしているのが一番だと思ったから。