幼馴染メイドを救うのは幼馴染の僕しかいないらしい①
月曜日、終礼のホームルームの始まりを待っている間、ボーッとしながら外を眺めていた。
今日も幸奈は優しかったな……。
今日も今日とて学校では幸奈は優しい。昔のような優しさ。好きだったあの頃の幸奈になったかのような錯覚を覚えさせられる。
って、今更なに思ってんだか。こっちは迷惑してるってのに。
今日の体育の授業。それはそれは息苦しいものだった。サッカーをやっていた。サッカーってチーム種目だよね? なのに、チームメイトも相手もみんな僕を敵視していてスゴく居づらかった。
そして、走っていると途中で誰かに足を引っかけられた。わざとやったのか、それとも偶然なのかは分からないけど転けた。膝を擦りむいて血を出した僕。どこかから笑い声が聞こえたような気がした。
そんな僕を心配してくれたのは春だけだった。春から保健室に行った方がいいぞと言われ大人しく従った。幸い、大した怪我でなかったけど、それでも幾分は腹が立つ。男の嫉妬はダサいものだ。
と、そんなことを考えていると春がなにやら焦った様子で駆け寄ってくる。なんだと思いながら振り向いた。
「幸奈ちゃんが告白される!」
「……え?」
幸奈が告白……?
自然と幸奈の姿を探してしまった。でも、教室のどこにも見つからなかった。
「ふ、ふーん……で、相手は? 別に興味ないけど……」
嘘だ。少しばかり、動揺してしまってる。
でも、それを気づかれたくなくて冷静を装った。
「六組の吉野だよ!」
「……誰?」
全然知らない名前だった。
僕はほとんどと言っていいほど、他人とコミュニケーションをとらない。一年、二年と同じクラスにいたかと記憶を探るも、そもそも覚えていないんだったと思い出した。
「サッカー部のエースでイケメンで女子の憧れナンバーワンの男だよ!」
「これまた随分とステータスがお高いようで……」
「そんな呑気なこと言ってていいのかよ!」
気持ちが高揚してるのか荒ぶっている春。肩を掴んでぐいぐいしてくる。
「いや、だからってどうしろと?」
「そうだけど……気にならないのか?」
「気にはなる……」
でも、だからってどうすることも出来ない。人様の告白を邪魔していい権利なんて誰にもない。
それに――
「どうせ、断るだろ」
幸奈は誰かが好きだ。その相手がこれから告白してくる相手なのかもしれない。でも、不思議とまた断るんじゃないかという思いの方が強かった。
「そんなの分かんねーだろ。もしかしたら、付き合いだすかもしれない。いいのか?」
幸奈が誰かと付き合う、か……。
それはそれでどうなんだろうか?
多分、少しは嫌な気持ちにはなると思う。もしかしたら、相手は最低な男で幸奈が悲しくなるかもしれない。でも、それは真逆の可能性もあるわけで。実は、スッゴくいい男で幸奈を幸せにするかもしれない。
それに、幸奈がどういう道を選ぼうとも僕にはそれを止める権利があるわけでもないし、断れって言う間柄でもない。
結局、どうすることもないって結論に至るしかないんだ。元々、幸奈が誰かと付き合えば『ぽぷらん』を辞めるかもしれないって期待してたのも僕だし、黙って結末を知るしかないんだよ。
「ま、幸奈が決めることだし。僕がどうこう言う訳にはいかないでしょ」
……ん? ズキッ?
なんか、胸辺りが痛いような……?
「あっそ……」
僕が胸辺りを擦っていると春は少し軽蔑したような表情を浮かべて教室を出ていった。そして、変わるようにして幸奈が戻ってきた。
幸奈はそのまま僕の方へと歩いてくる。
「春くんどうしたの?」
「知らん」
「ふーん。あ、そうだ。祐介。私、この後告白されるみたい」
淡々と告げる幸奈に驚いた。
だからって、どうして僕に言う!?
「よ、よかったな……?」
「よかった? 祐介は私が告白されてもいいの?」
「……そりゃ、モテることはいいことなんじゃないか? それに、これが初めてって訳でもないだろ?」
幼馴染として幸奈がモテることは嬉しいことだ。嬉しいこと……なんだけど、今は少し嫌だと思ってる僕もいて……。なんだ、これ?
「そうだけど……。ねぇ、私はどうしたらいいと思う?」
「……それは、幸奈が決めることだから。僕には分からない。でも、どうするかは幸奈の自由だからどうしたっていいと思う」
「祐介は? 祐介は私にどうしてほしい?」
少し不安げな幸奈の質問。まるで、僕に断れって言ってほしそうな物欲しそうな表情。
でも、断ってほしいと思っていても言える訳もなく幸奈から視線をそらしてしまった。
「……あんまり、付き合ってほしい……とは思わない。僕の勝手な気持ちだから幸奈には関係ないけど……」
告白したことなんてないから分からないけど、誰かに告白するのってスゴく勇気がいることなんだと思う。結果がどうであれ、勇気のいることを他人が邪魔しちゃいけないんだ。
だから、結果を誰かが決めたらダメなんだ。自分の気持ちでしっかり判断しないといけないんだ。
「……ふふ、そっか。祐介は私に断ってほしいんだ」
「べ、別に断ってほしいとかは思って――」
「大丈夫だよ。私、付き合わないから。断るから」
「……っ」
嬉しそうに笑っている幸奈がなんだかとても可愛く見えた気がした。それが、恥ずかしくてまたそっぽを向いてぶっきらぼうに言ってしまった。
「か、勝手にしろよ……」
「うん!」
軽快なステップで席へと戻っていく幸奈。
そっか、断るのか……。
幸奈がはっきりと口にしてくれた言葉。僕には関係ないはずなのに、どうしてかスゴく喜んでいる僕がいる。幼馴染のエゴって嫌だ。




