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隣に住んでいるのは幼馴染メイドだった③了

 そもそも、どうして隣に住んでいるのが幸奈だと知るのに遅くなったのか。今日まで気づかなかったのか。表札を見れば、一発で分かるのに……知っていれば、母さんに土下座でもして家に帰らせてもらったのに……。

 今度からは表札をよく見よう……。


「それじゃ、姫宮さん。僕はこれで……」


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」


 僕が去ろうと颯爽と振り返ると幸奈に呼び止められた。振り返るとそこには野獣が獲物を狙う目付きで睨んでいる幸奈がいる。

 一々、何だよ……。この事はお互い仕方ないとしてソッとしておく方がお互いのためだろ?


「……あんた、誰にも言うんじゃないわよ」


「……何を?」


「何をって……全部よ全部!」


「全部?」


「だから、全部よ。メイド喫茶でバイトしていることも、私が普段はこんな格好していることも、あんたと隣同士で住んでいることもよ!」


 ああ、なるほど。

 僕は幸奈に言われて全部ということの意味を理解した。


「言ったら?」


「……す」


「ん?」


「あんたを殺すって言ってるの!」


 それは、恐ろしい。決して言わないようにしないと。


「はいはい、分かりましたよ」


 僕はそう言いつつ幸奈の姿をスマホで撮った。


「ちょっと、何いきなり撮ってるのよ!?」


「何って……分からない?」


 僕は笑ってやった。

 これは、僕を守るためのものだ。もし口が滑って、幸奈から襲われそうになればこれを広めてから僕は死ぬ。そして、僕が死んでから社会的に幸奈に復讐するためのものなのだ。……まぁ、社会的って言っても高校内だけのことだけど。それでも、学生にとって校内で恥ずかしい姿を晒されるのは社会的に殺られたこととなるだろう。僕は決してただでは殺られない男なのだ!


「ま、まさか……」


 幸奈は何かに気づいたようにして後退った。

 そうそう……関わりたくなかったら、僕から離れて――。


「そ、その写真で私を脅す気なんでしょ! その写真で『バラされたくなかったら、僕専属のメイドになれ』って言うつもりなんでしょ!」


 そうそう……は!?


「それで、あんなことやこんなこと私にさせるつもりなんでしょ! 変態! えっち!」


「違う! 誰がそんなこと言うか!」


「じゃあ、夜中に一人でこっそり使うつもりなんでしょ! 最低! 変態エロ魔神!」


 幸奈はまるで身を守るかのように腕で身体を隠しながら赤くなって言ってきた。

 そんな幸奈の姿を見て――僕は馬鹿にするように息を吐いた。


「……はっ」


「何よ……何、馬鹿にしてるのよ!」


 幸奈は気づいていない。確かに、幸奈は美少女だ。でも、それは、あくまで顔の話。手足はスラッとしていても、身体つきはまだまだお子ちゃまだ。つまり、そーいう意味での価値はあまりない。僕はどっちかと言うと普通派だからだ。


「あのさ、姫宮さんさ……僕、姫宮さんにはそーいうことこれっっっぽっちも求めてないから安心して。ね?」


 僕は可哀想なものを見る目で微笑みながら言った。しかし、幸奈は中々信じてくれないようでその体勢を解かなかった。


「僕は姫宮さんが困るようなこと言うつもりもないからこれで」


 僕はとっとと去ろうと思って手を振って振り返った。


「あ、ちょっと……」


 しつこいな……。いい加減、解放してくれよ。

 僕は少しイラついた雰囲気でぶっきらぼうに答えた。


「なに?」


「あ、いや……」


 幸奈は指をちょんちょんとしながら言葉が詰まっているような気がした。その頬は僅かに赤くなっているように見える。

 言いたいことがあるならはっきり言えよ……。


「姫宮さんさ、用事あったんじゃないの?」


「え、あ、そ、そうよ。これから、コンビニにご飯を買いに行くのよ。それも、黙ってなさいよ!」


 はいはい、一々聞いてないし言うつもりもないって……。


「分かった分かった。それじゃ、僕はこれで」


「ふん、とっとと消えなさいよ!」


 そう言うと幸奈は左側の階段へ向かっていった。

 僕はそんな幸奈をつくづく鬱陶しいと思いながら右の階段へと向かった。


 そー言えば、いつの間にか普通に話してたな……。何年も話してなかったし、どう話せばいいか分からなかったけど……。

 ま、だからって、昔のように仲良くなりたいとか思わないけど。名字呼びだって変えられる気がしないし。


「そう言えば、普段はいないのにどうして昨日はメイド喫茶にいたのか訊きそびれたな……それに、どうしてメイドなんてやってんだか……。ま、どうでもいいか。もう関わることもないんだし」


 この時の僕は知るよしもなかった。どうして幸奈がメイドなんかをやっているのかを。そして、どう頑張っても僕と幸奈の腐れ縁は切れないということを。

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