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幼馴染メイドと寄り道ラーメンを(デートじゃない)②

 学校を出て、マンションとは逆方向に歩いて十分ちょっとした所にある駅。この駅は電車通学の生徒も利用しているものでチラホラと見かけた。が、すぐ近くにあった幸奈が目星をつけていたラーメン屋に入ったおかげで気づかれた様子はなかった。


 幸奈は初めて来たのか興味津々に店の中を見渡していた。

 因みに、僕は春と何度か来たことがあるからこの店について知っている。


 この店はカウンター席が多い。テーブル席も少なからずは設置されているがカウンター席の方が圧倒的に多い。


「幸奈、カウンターでいいか?」 


 今はちょうど昼ご飯時であって、サラリーマンのおっさん達が多い。もう少し早いか遅い時間ならそれなりにすいていて今のような暑苦しい空気はない。

 そんな中で四人分の席が空いているのを見つけて訊いた。


「ええ」


 幸奈を連れて空いている席に向かうと隣同士で座った。互いのもう隣は開けておく。


 ラーメンのスープがとんで火傷でもしたら大変だからな。


「いらっしゃい。ご注文は?」


 席に着くと気前のいいオヤジさんが空のコップを二つ出しながら訊いてくる。


「塩ラーメンで」


「あいよ、塩ラーメンね。そっちの嬢ちゃんは?」


「えっと……えっと……と、豚骨ラーメン」


「あいよ、豚骨ラーメンね」


「あ、あと、焼き飯と餃子!」


「あいよ!」


 どんだけ食うんだよ……オヤジさんも一瞬ひきつってたぞ。


 注文を終えて料理が出てくるのを待つ。


「幸奈、コップ貸して。水入れるから」


 水を入れるのはセルフサービスとなっていて目の前に水と氷が入ったボトルが置かれている。


「じ、自分でするわよ」


「いいからいいから。早く貸せ」


 僕は幸奈からコップを奪うと勝手に水を入れた。


「ん」


「あ、ありがと……」


 水を入れたコップを渡すと幸奈は小さく礼を口にして水を口に含んでいた。


 あとは何をすればいいんだろ……?


 僕は店内を見渡して、何か僕に出来ることはないか探した。


「幸奈、おしぼりあるぞ。使うか?」


「え、ええ」


「幸奈、水足りてるか? 入れるぞ?」


「う、うん」


 あとは……あとは……。


「ね、ねぇ、どうしたの?」


「な、なにが?」


 あくまでも落ち着いて返事した。

 そりゃ、いきなり幸奈を労うような真似してるんだから不思議に思われても仕方ないだろう。


「なんだか優しくない?」


「ハハハ、なに言ってんだ。僕はいつも優しいだろ?」


 誤魔化す。精一杯誤魔化す。


「そうだけど……でも、なんだか今日はいつも以上に優しい気がする」


 いつも優しいとは思ってるんだな……。

 それはそれで、スッゲー恥ずかしい……!


 幸奈から思ってもない言葉が出てきて頬が熱くなるのが分かった。


「いや、幸奈にはいっぱいお世話になったからな。今日は報酬ってことだしいっぱい恩返ししようかと」


 春が言っていたのだ――


『まぁ、祐介に勉強教えてくれる物好きがいたら相当苦労するんだろうな。ひいひい言ってそうなのが目に浮かぶ』


 と。楽しそうに笑いながら言っていたのだ。


 幸奈はひいひいとは言ってなかったけどとても疲れたんじゃないだろうかと思う。多大なる迷惑をかけていたんじゃないかと思う。


 そう思ったから今日は幸奈を労おうと考えたのだ。恩返しとして。


「そ、そんなのいいわよ。私が教えるって言ったんだし……ラーメンだって奢ってもらうんだから」


「でも……」


「それに、恩返しならもうしてもらってるし……これ以上されたらまた私が何かしてあげないとダメになるじゃない」


 確かにな……幸奈にはラーメンを奢れとしか言われてない。だから、ラーメンだけ奢ればいい。


 それに、幸奈が『いい』って言ったんだからこれ以上気を遣わなくていいのか。


「分かった。もうやめる」


「そうよ。祐介はいつも通りの祐介でいればいいのよ。で、テストはどうだったの?」


「幸奈のおかげでなんとかなったよ。ありがとな」


「べ、別に、私は暗記って方法を教えてあげて大事な部分を写させてあげただけだから。祐介の残念な頭が頑張った結果よ」


 少しイラッとくる言い方だが幸奈がいてくれたからなんとかなったのは事実だ。口答えはしない。


「それに、まだ安心してたらダメよ。結果はまだなんだから」


「分かってる。幸奈の方こそどうだったんだ?」


「私? 私は当然いつも通りよ」


 幸奈もいつも通りか……。

 てことは、春と同じで普通に『高得点』だってことか。少し羨ましい……。


「あ、因みにさ、今日のこれってこの前部屋を片付けてた時に言ってた出掛けてあげるってやつじゃ――」


「違うわよ」


 やっぱりか……。

 あわよくば、この寄り道が幸奈と出掛けるってことにならないかと思ったけど即否定された。


「今日のは私への報酬。この前言ったのは祐介へのプレゼントだから。どこに行くのかちゃんと考えてなさいよ。私は祐介と一緒ならどこでもいいから」


「どこでもって……」


 そーいうのが一番困るんだよな。

 明確な場所を指定されてないから適当に選んだら文句を言われる……よくあるツンデレキャラと接する時のパターンだ。


 相手のことが大好きでどんな場所でも肯定して受け入れてくれる人なら『どこでもいい』って言ってもいい。けど、大半の場合文句を言う。だから、そんなのを見ると文句を言うなら最初から行きたい場所を言っておきなさいよって思う。


 幸奈が行きたい場所ね……。

 全然分からんし催促されたら魔法の言葉を使ってずっと出掛ける機会なんてこないようにしよう。


「あいよ、塩ラーメンと豚骨ラーメンね!」


 そんなことを考えていると注文した料理が順に出てきた。


 漂ってくる塩と豚骨のスープの香りが食欲をそそってくる。


「はい、幸奈。お箸」


「ありがとう」


 僕は割り箸が入ったかごから二本取り出すと一本を幸奈に渡した。


 これは、恩返しとかそういった意味ではない。ただの、何てことのない普通の動きだ。幸奈もそれを分かっているのか素直に受け取った。


「「いただきます」」


 僕と幸奈は同時にラーメンを食べ始めた。

 美味しさからか、幸奈の顔が一気に明るくなったような気がした。


 美味しそうに嬉しそうにする幸奈を見て僕も箸を進めた。

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