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保健室で二人きりになるのは幼馴染メイドとだった③了

 ……耳を疑った。

 静かな保健室の中に少しばかり大きな声で響いた幸奈からの『謝りたい』という一言。


「だ、大丈夫か? 気分でも悪いのか?」


 気づいたらそう口にしていた。

 だって、ようやく少しデレた? ばかりの幸奈の口から謝りたいとか……それこそ、気分が悪くてまともな判断が出来ていないとしか思えない。

 それに、そもそも幸奈は用事があって保健室まで来たと言ってた。つまり、最初から調子が悪かったんだ!


「な、なんでそんなこと言うのよ!」


「いや、気分が悪いんだろ? ほら、僕はもう出るからベッドで寝てろ」


「なっ!? い、いきなり一緒に寝ろだなんて……最低!」


「言ってない言ってない。ちゃんと、よく聞け。僕はもう教室に戻るから、ベッドで横になってろって言ったんだ」


「嘘よ。私が寝たところを襲うつもりなんでしょ。変態!」


 また、この流れか……しつこい。

 僕は幸奈の身体に興味なんてないんだ!


「はぁ……」


「なにため息ついてるのよ!」


「……いや、そのネタ好きなんだなって」


「だ、誰が変態よ!」


 まぁ、普通に考えて親切にしている僕に対してその考えは思いつかないだろう。つまり、幸奈の頭の中ではそーいうことでいっぱいいっぱいらしい。

 ……それを言えば、殴られそうな気がするから言わないけど……僕よりよっぽど変態なんだな。


「いつから、こんな風に育っていったんだか……」


「なに!?」


「なんでもない……。それで、謝りたいって?」


「そ、そうよ。とっとと謝らせなさい」


「ちゃんと聞いてるから……さっさとどうぞ」


 今さら謝られたって僕の生活が変わることはもうない。だから、謝られても虚しくなるだけだ。でも、せっかくだし最後に少しだけ幸奈よりも上の世界に立ってから最期を迎えてもいいだろう。


「そ、その……昨日は本当にごめんなさい。私が余計なことを口にしたせいで……祐介が酷い目にあってるって教えてもらった」


 教えたのはおそらく春だな。

 春以外のクラスメイトは僕と幸奈の関係を誤解している。それに、春は幸奈と友人だったこともあり、今でも普通に接することが出来るから教えたんだろう。


 そして、幸奈の言う『余計なこと』。

 それは、僕となら噂されても構わないという……言い方と聞こえ方だけなら『好き』という意味にとれるそれのことだろう。


 でも、幸奈は誤解している。

 最初にここで食べていけばいいなんて言わなかったら僕は別の場所に移動して無事に昼休みを過ごせていたんだ。

 だから、謝るならそこから――


 ……いや、そもそも、僕が座っているのが幸奈だと気づいていればこんなことにはならなかった。

 つまり、元々の原因は僕がちゃんと気づかなかったから……なんだよな。


「……いいよ。勝手に誤解してる奴等が馬鹿でアホでマヌケなんだし」


「でも……」


「だいたい……なんでいきなりあんなこと言ったんだよ?」


「そんなの分かんないわよ。……ただ、あの後輩の子が仲良さそうにベタベタくっついてるのが見ててモヤモヤしたのよ」


「仲良さそうにベタベタって……ただのスキンシップだろ?」


「スキンシップって……あの子と付き合ってるの?」


「付き合ってるわけないだろ」


「だ、だったら、簡単に身体なんて触らせたりしないでよ!」


「身体って……服の上から背中を叩かれただけだぞ?」


 幸奈が言うのはなんだかいやらしく聞こえてしまう。

 そもそも、服の上からなんて身体に触れたことになるのか?


「そ、それでもダメなのよ!」


「なんでだよ! だいたいお前だってメイドの時に手くらい握ったり触らしたりしてんじゃないのかよ!」


 深雪さんは初めて会った時、腕に抱きついてきてその豊満な胸を僕に押しつけてきた。それに、頭を撫でてきたりたまに手を握りながら話したりする時がある。もちろん、大人が通う店とは違うと理解しているけどたまに分からなくなる。

 そんなメイド喫茶で働いているんだから幸奈だってそれくらいのことはしてるはずだ。……押しつける胸はないけど。


「そんなことするはずないでしょ! 私の身体を見ず知らずの人に触らせたりしないわよ! 私の身体に触れていいのは一人しかいないんだから!」


 一人……つまり、幸奈には今好きな人がいて、その人のために告白されても断り続けてるって訳か。


「……なんだ、意外と純情なんだな」


「なっ……」


「で、その一人って誰だよ?」


 上手く聞き出せたらそれを盾に幸奈から強いことを言われるのもなくなるかもしれない。

 むしろ、僕が協力して上手く付き合うまでいくとメイド喫茶を辞めるかもしれない。そうなれば、僕は『もしかしたらいるかも』という不安をなくして安心して通い続けることが出来る。さぁ、吐け。お前の好きな人を吐いてしまえ!


「そ、それくらい気づきなさいよ! この鈍感!」


「はぁ?」


 何故か、幸奈は真っ赤になりながら怒ってきた。

 気づきなさいって……僕と幸奈の共通人物なんて春しかいないぞ?

 まさか……春なのか?

 確かに春はイケメンで運動神経も良くて頭も良い。その上、友好的で誰からも好かれるような良いやつだ。幸奈と並んでもお似合いで不思議でない。

 でも、アイツにはもう彼女がいる。

 泥棒猫にでもなるつもりなのか!?


「その……言いにくいんだが、春にはもう彼女が――」


「ち、違うわよ! この馬鹿! と、とにかく、私は謝ったから。私に謝らせたんだから明日からもちゃんと学校来なさいよ!」


「はぁ!?」


「当然でしょ? 私に謝らせといて休むだなんて謝り損じゃない」


「勝手に謝っといてなにを――」


「い、いいわね! ちゃんと来ないとどうなるか……覚悟してなさい!」


 どうなるんだよ……。

 幸奈はそれだけを言い残すと保健室を出ていった。


 どうやら幸奈はただのツンデレじゃない……女王様タイプのツンデレに成長していたようだ。


「はぁ……そんなに拗らせてるとその想い人にも振り向いてもらえないぞ……」


 一人になった保健室で大きなため息が出た。

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