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メイド喫茶で出会うは誘ってくれたメイドだった②

 僕がメイド喫茶に通い出したのは二年前のことである。

 何かと新しい季節の春、僕は一人で晩ご飯をどこで食べようか悩みながら歩いていた。すると、いきなり声をかけられた。


「ね~ね~、お兄さん……には、見えないからボク……でいいかな?」


 いきなり声をかけてきた相手は深雪さんだった。メイドの姿をしながら勧誘している最中だったのだ。

 僕は初め、怪しいお店への勧誘だと思った。だって、深雪さんの豊かな胸が作り出す谷間がやたらと強調されていたから。


「……っ、け、結構です! それに、僕。お金持ってないです!」


「あはは、お金はそんなにかからないよ。あ、もしかして~エッチなお誘いだと思ってる?」


「……っ!? お、思ってないです!」


「その反応……い~やらしい~」


 顔がカアッと熱くなった気がした。

 しかし、そんな僕を他所に深雪さんは楽しそうに笑っていた。


「ま、こんな格好してるから仕方ないよね。からかってごめんね、ボク。お姉さんはね、メイドさんなの」


「メイドさん?」


「そう。メイド喫茶で働いてるんだ。今はご主人様とお嬢様を勧誘してる最中なの」


「そう、なんですか」


「うん。それでね……ボク、メイド喫茶には興味ないかな?」


「興味ですか……」


 正直、興味は微塵もなかった。

 なんとなく、メイド喫茶に通うなんてオタクしかいないと思って、そんなオタクが恥ずかしくてなりたくないっていう偏見があったから。

 だけど、その顔で見つめられたら断るに断れなかった。


「あの、メイド喫茶って美味しいご飯ありますか? 僕、晩ご飯を探していて……」


「ご飯? ご飯なら沢山あるよ! しかも、どれもスッゴク美味しいやつ。多分、食べたら頬っぺた落ちちゃうよ!」


 そこまで言われると俄然興味が出てくる。……あ、メイドじゃなくてご飯の話ね。


「じゃあ、行ってみます」


「本当!? じゃあ、お姉さんと一緒に行こ!」


 そう言うと深雪さんは僕の腕に自分の腕を絡めて抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと……」


「こっちだよ。私が案内するからね」


 深雪さんは自分の胸を僕の腕に押しつけていることを全く気にしない様子で案内してくる。

 僕は初めての感触にドキドキしまくっていた。


「あ、そうだ。私は深雪。ボクの名前は?」


「ゆ、祐介です」


「じゃあ、祐介くん。ここで、ちょっと待っててね。私が入って十秒したら扉を開けて」


 深雪さんはそう言い残して中へと入っていた。見上げると看板には大きく『ぽぷらん』と書かれていた。


 そろそろ、十秒経ったかな?

 扉を開けて中に入った。そして、目を大きく見開いた。


「おかえりなさいませ、ご主人様!」


 そこには、可愛くて愛らしくて思わず惚れてしまいそうになるメイドさんがいた――。



 あれから、僕は深雪さんとオムライスの虜になってるんだよな――。


「お待たせして、ごめんね~」


「いえいえ」


 深雪さんは僕の前の席に座った。

 両手を組んでその上に顎を乗せると優しい微笑みで笑いかけてきてくれた。


「祐介くんとお話するのはなんだか久しぶりだね」


「そうですね」


 初めてメイド喫茶を訪れた翌週から僕は通い続けた。そして、深雪さんが僕の相手をしてくれることが沢山あった。毎週ではないけれど、それでもここにいるメイドさんの中では一番だ。それに、僕を勧誘したということもあって深雪さんは僕のことを覚えてくれていた。

 そうして、何度か話しているうちにお互いに少しだけだけど自分についても話した。だから、僕は深雪さんのことを少しだけ知っている。今は大学生で一人暮らしをしていて、生活費のためにここで毎日のようにバイトしているんだということを。


「先週はどうしたんですか? 僕、てっきり深雪さんと話せると思ってたんですけど……あ、言いにくかったらすいません。あと、気持ち悪くてすいません」


「ううん、気持ち悪くなんてないよ。私だって祐介くんと話すの楽しいから」


 メイドとしての言葉だと分かっていても僕は嬉しくなってしまう。

 ああ、これが、本来のメイドだよ……!


「先週はね、情けない話だけど月曜日に提出するレポートが間に合いそうになかったら一日中家にこもって仕上げてたんだ」


「そうだったんですね。それで、無事に出来たんですか?」


「うん。ぎりぎりだったけど間に合ったよ」


 嬉しそうに笑う深雪さん。

 その笑顔は見ているこっちが癒される。


「お疲れ様です」


「ありがとうございます」


 何故か、頭を下げ合う僕達。お互い顔を見合わせて笑みを溢した。

 あぁ、楽しいなぁ……!

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