メイド喫茶で出会うは幼馴染メイドであった①
「おかえりなさいませ、ご主人さ――」
そこで、彼女の言葉は途切れた。おそらく、最後の一言をいう前に僕に気づいたのだろう。証拠に目をこれでもかというほど大きく見開き、口をパクパクさせている。
対して僕。僕も彼女同様、目を大きく見開き、口をパクパクさせていた。開いた口がふさがらないとはまさしくこのことだと感じた。
凍てつく空気が僕達を包んだ。
「なんっで、あんたが――」
彼女は指を震わせながら僕に向かってどうしてここにいるのかと言いたかったんだと思う。だけど、それを言う前に途中で遮られていた。
「何してるの、幸奈ちゃん。ボーッとしてないで早くご主人様を席へ案内して」
目を見張るピンク色の髪をした先輩らしき人からそう言われ彼女――姫宮 幸奈は身体をビクッと震わせた。
そして、とても悔しそうに……心底嫌そうにしながら僕に作り笑顔を向けた。
「おかえりな……おかえりになさいませ、ご主人様!」
っ、コイツ……!
笑顔は思わず惚れてしまいそうになるほど可愛かった。だが、発せられた言葉はさっさとこの場から消えろと言っているものだった。
「こら、ご主人様に失礼でしょう!」
「いたっ!」
しかし、先程の先輩らしき人が幸奈の頭を軽く叩きすぐに僕に本物の笑顔を向けた。
「申し訳ありません、ご主人様。ささ、お席へ案内いたします。幸奈ちゃんはご主人様にお出しする水を用意してきて」
幸奈はそう言われると嫌そうにしながら奥へと消えていき、僕はその姿を見送りながら席へと案内された。
ここはメイド喫茶『ぽぷらん』。どこにでもあるようないたって普通のメイド喫茶。黒と白でデザインされたふりふりのメイド服を着たメイドさんと楽しくおしゃべりするためにあるお店だ。
「ご主人様、先程は失礼しました。この娘、普段はあのような態度をとらないのですが今日は……」
チラッと幸奈の方を見ると幸奈はものすごく不機嫌な顔をしていた。スタスタと歩いてきてムスッとしながら、僕の前へ水の入ったコップを強く置いた。
「どうぞ、ご主人様。ただの水です。これを飲んだら早くおかえりになさってください」
「こら、幸奈ちゃん!」
「ふんっ!」
幸奈のやつ……相当怒ってるな。
幸奈は怒られても反省する素振りを見せず、頬を膨らませたままつんとしていた。
まぁ、僕なんかにメイド姿を見られたんだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。
「すいません、ご主人様。嫌な気分にさせて……。今日はたっぷりとサービスさせていただきますので……ご注文はお決まりですか?」
「あ、じゃあ、『おいしくなーれオムライス』ひとつ」
「『おいしくなーれオムライス』ですね。かしこまりました。では、色々と盛り盛りにして運ばせていただきますね。それではお待ちください。……そうだ。ご主人様には申し訳ないのですが、今ご主人様の相手を出来るのはこの娘しかいないのです。ですので、嫌だと思いますがこの娘をよろしくお願いします」
「……え、ちょっと、待ってください葵先輩。私が嫌なんですけど。どうして私がこんな――」
「こ・ん・な?」
「ひっ!」
「こんな……じゃなくて、ご主人様でしょう?」
「で、でも、私は……」
「でももなにもありません! ご主人様の相手をしないなら今日でクビです!」
「~~~っ、わ、分かりました。こん……じゃなくて、ご、ご主人様の相手をします。やらせていただきます」
幸奈は俯きながら小さく呟いていた。それほど、葵先輩と呼ばれたメイドが怖かったのだろう。僕には見えてないからただの憶測だけど。
「では、ご主人様。少し、お待ちください」
葵さんは僕に頭を下げると厨房の方へと向かっていった。
僕と幸奈は二人きりに取り残された。
再び凍てつく空気が僕達を包んだ気がした。
寒い……。