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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第2章 皆殺しで始まる最初のクエスト
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皆殺しで始まる最初のクエスト

『――はっはっは! これはすごい。全滅したのは初めてだ』


 静かでたまらないテスト空間に、ホウライの大きな笑い声が響く。

 耳障りなアナウンスの中に拍手がまざり、ホウライの後ろで研究員らが笑っているのが聞こえる。


『本日のクエスト及び実験は終了です。今回のクエストでもっとも多くポイントを集めたのは……』


 わざとらしく間をあけた。後ろで研究員らがまだ笑っている。


『被験者、唐梅。とそのNPCです。おめでとうございます。日本近畿地区会場の生存者はたった一組。いやあ、すごいですねえ。おかげで賭けに負けてしまった』


 唐梅は、もうホウライが何を言おうと驚かない。たった一組という言葉にだけ反応する。絶対に動くまい、何も見るまいとする目を強引に動かした。


 静まり返ったテスト空間の中央を見る。


 ついさっきまで暴れていた悪属性のNPC達が、血を流して床に転がっている。腹や背には赤い光線が突き刺さり、未だ鈍く光を放つ。


 付近にいた主人と思しき被験者らも同様に血にまみれ、あの少年が、目をつむって動かないドラゴンに寄り添い血の海に沈んでいる。


 目だけでは追えずに、首を動かす。


 NPCの死骸の裏に、隠れていた被験者達の顔を見つける。ただ怯えて、惨劇が過ぎ去るのを待っていた善良な人達だ。表情にもう怯えは見えない。それなのに、赤い涙を流し泣いている。


 半分凍った体にムチを打ち、テスト空間の全体を見渡そうとする。


 探す。ホウライの言葉を信じずに、探す。

 赤い光線が、釘のようにして点々と遠くに続く。その釘の下に、人。人。人。


『死体を回収。早速研究に回せ』


 ぼそりと呟いたホウライの指示を、唐梅は聞き逃さない。だが、反応できない。


『生存された被験者の方は、休憩用のフィールドに移動して下さい。次のクエスト及び実験が配信されるまで、そこでお待ちを』


 延々と続いて見えたテスト空間の奥に、以前会場で見た黒い穴が出現する。

 相棒が唐梅の首根っこを引っ張って、ずるずると引きずり、穴へ向かう。


 引きずられながら、釘を見る。赤い釘が目の前を通りすぎ、視界から消えては、現れる。


 突然、弾かれたように唐梅は暴れだした。もがき、掴まれている学ランの襟が破ける。

 相棒の手から逃れ、意にかいさず飛び出し、釘と死体の中を駆けた。


「――……砂漠蔵(さばくら)


 死体の山。その中の一つを抱き起こす。短い光線に胸を裂かれ、黒い大きな動かない猫を抱えている。制服のシャツを真っ赤に染めた、金髪の少女。


「……来てたんだ。唐梅」


 薄く目を開け、砂漠蔵が呟いた。


「……君……、……消える、って……まさか……」


 現実世界での砂漠蔵の言葉を思い出す。


 あの時自分に向けられた火が、本当に本気のものでなかったことを思い知る。


 騒動の後、逃げるように自分はここへ来た。誰かを救おうだなんて体のいい言い方をしようと、結局は夢が叶いそうにない現実世界から逃げたのだ。


 砂漠蔵はそれよりも前に、最初から、ここに来るつもりだったのか。


「……ここにいるの……私のせい? ……でも……よかったじゃん。……因果ってものを、見られたでしょ」


 喋る度、口端から血が大きくあふれ出る。それでも尚、砂漠蔵は続けた。


「……謝んないよ、唐梅。今までの、こと……。……でも……そう、だね……。……一億、手に入れたら。……欲しいもの、買いなよ……こっちじゃなくて、ちゃんと……あっちで……もう一度……さ……。……」


 砂漠蔵が、ゆっくりと目をつむる。


 それを待っていたのか、間を置かず後ろから声がした。


「ご主人様。早く行かないと”ドア”が閉じてしまいますよ」


 相棒が呼んでいる。


「死体を見て、楽しんでいるんですか」


 悪属性の、相棒。


「……ご主人様。楽しんでいるところ悪いですが、一つどうしても、聞きたいことがあります」


 ずし、と唐梅の肩に、重いものがのしかかる。血が染みたごとく赤い包帯の巻かれた、大きな手。強い力で肩を掴み、軋ませる。


「どうですか。私の仕事は」


 唐梅は俯く。決して悟られまいと、俯く。


 背を丸めた拍子に、近づいた少女の裂けた胸から漂う鉄の臭いを嗅いで、必死に抑えていた震えが溢れそうになる。俯いたまま、肩に乗った相棒の手を掴んだ。


 ……こいつの前で、吐いちゃいけない。こいつの機嫌を、損ねちゃいけない。この、悪属性の相棒が、今、欲しがっているのは……。


「……は、はは。はは……。……か、感謝、するよ。僕の、ために……戦って、くれて。……。き、君……。……君が、相棒で……僕は……」


 息を吸う。状況と正反対の言葉を相棒に渡す。


「僕は……ついてる」


 後ろで悪属性が笑う。主人の涙を知らずに笑う。楽しそうにすると、NPCが研究員らに指示された定型のセリフを主人に伝えた。


「――サイバーセカンドへようこそ。ご主人様」



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


お察しの通り、こちらの作品は正義のヒーローになりたかったのに与えられた力が悪の力だったら――というコンセプトをもとにした作品です。


その悪の力は人の形をしていて口を聞く、という方が言うこと聞かなくておもしろそうだと思い、このような形をとりました。


なろう系の王道展開である「現実世界で評価されない主人公が異世界に転生・転移すると評価され、幸せになる」という展開の真逆をいく邪道な内容にもなっています。


王道のおもしろい部分(ゲームの世界に転移、チート能力など)はしっかり取り入れつつ、しかし「普通ならここでいいことが起こる!」とされるシーンであえてどん底に落ちるトリッキー構成。


ほとんどの方がここで脱落すると予想しています。あなたはどうでしたか?


これより先は、最恐の魔術師グッドディードと善良な主人公唐梅のとても”楽しい”ストーリー、『僕の相棒KOEEE系』が本格始動!


正義のヒーローになることはできるのか? ――たとえ、相棒が殺人鬼でも。


まあ、チートな相棒がいれば楽勝ですよね。


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