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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第6章 被験者組と脱落者組 それぞれの思惑
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脱落者会議 砂漠と爬虫類のにらみ合い

 彼らの休憩用フィールドは、無機質な白一色でつくられている。だが、昼間は日の光が反射してまぶしく、美しい。テスト空間とはまた違った白が一面に広がっていた。


 そこに群がるのは、黒や金、銀のいかめしい集団。テラスにあるテーブル席に、それぞれ座っている。ドットレッドだけが、普段通りの白いワンピースを着てフィールドになじんでいた。


「完データって言えよ。ややこしい」


 黒パーカーに金髪のスタッドが、ぞんざいに椅子に腰かけ言う。


「あら。脱落者って言われると悔しい、の間違いじゃないの。それに完データの意味、あなたたちわかってないでしょ」


「おまえはわかってるのか、情報屋」


 と詫無が聞く。黒いネックウォーマーに、銀のアクセサリー類をびっしりと身につけている。


「さあね。知りたかったら――……」


「話し合いを始めるぞ。以降、呼び名は完データに統合。それでいいな」


 ちょっと、と怒るドットレッドをシカトして、詫無がまとめた。完データたちが話し合いを始める。


「蜜月は完全にあっちに行ったな。唐梅のやつ」


 と言い、詫無が情報パネルを出した。そこには、蜜月と唐梅が話している様子がうつっている。少し前の映像だ。


「あの子、最初から反対してたもの。生き残っている人たちの邪魔をするのはどうなのか、ってね」


「どうもこうもねえだろ。こっちだって殺されてんだ。最初の実験でも、昨日の実験でも」


 スタッドが冷徹に告げる。フォーゼが後ろから顔を出し、テーブルの上の食べ物に興味を示した。スタッドは自分の皿を取ると、フォーゼに見せる。皿の上のパイを、ドラゴンは一口で飲んでしまう。


「……殺されたって文句言う割に、あのアイテムもう使ったんでしょ。一定時間、攻撃を防げる粉。あんたなら自分に使いそうなのに」


 砂漠蔵の反論を無視し、テーブルにあるまだ半分も減っていないパイを、スタッドは丸ごとフォーゼにやる。ちょっと、とまた怒るドットレッド。


「なあ、ギルド名決めようぜ。俺たちもこれから完データとしてチーム組んでやっていくんだからさ」


 男性が一人、声をあげた。ゲーム好きな男性陣が賛同するのに対し、女性陣はうんざりという風に首をふる。


「ギルド? ゲームじゃねえんだぞ」


 と男性陣の中で唯一否定をこぼすスタッドに、砂漠蔵が再び指摘する。


「あんたが一番ゲーム感覚のくせに……初っぱなから殺しまわってたじゃん」


「そりゃあのキチガイ眼鏡だろ」


 暗に唐梅を指す言葉。砂漠蔵が、ずっと背けていた目をスタッドに向ける。


「……そんなやつじゃないよ」


「だろうな。もともとは正義のヒーローごっこ野郎だ。最初、俺にたてついてきた。でも、今はグッドディードに合わせてる。あれじゃどっちが主人だかわかりゃしねえ」


「唐梅はそんな臆病者じゃない」


 はっきりと否定する。砂漠蔵の目が、夜の砂漠の目になる。気温のない目。スタッドの爬虫類じみた目がそれをにらみ、砂漠と爬虫類の視線がぶつかった。


「名前なんかいらねー。別に、チームでもねえ。俺は唐梅とグッドディードを殺す。そのために行動する。利害が一致してっから、今回おまえらといっしょに動いた。それだけだ。今後も同じ」


 にらみ合いを続けながら、スタッドは言う。さきほどから否定も肯定もいっさい述べない詫無が、間に入る。


「……ま、参加するしないは自由だ。スタッドだけじゃない。全員、参加したいときだけ来い。サイバーセカンドのおかげ様々で、俺らは不死身だ。別にがんばってポイントを集める必要もない。ホウライと取引した以上、俺はやるけどな。生き残った被験者――半データどもの邪魔をする。この実験が終わるまで、な」


 完データたちがそれぞれ考えこむ。当然参加する、と言うものもいれば、黙ってことの成り行きを見守るものもいる。


 その間、テラスの影に隠れ、蜜月は自分の置かれた状況にまいっていた。


「あちゃー……こりゃ戻れないや」


 ドットレッドのNPCである、大きなてんとう虫の”ミスター・ドットレッド”を見る。主人の少女を背中に乗せ、会議の間もじっとおとなしくしている。ドットレッドは白地に赤い水玉、ミスター・ドットレッドは黒地に赤い水玉だ。


 彼? はてんとう虫であると同時に機械の体をしており、カメラを搭載している。自分の小さな分身をつくることもでき、今やサイバーセカンド中を彼の分身が監視していた。


 自分が半データの協定に入ったことは、二人のドットレッドにより筒抜けになってしまっていたようだ。蜜月は怒るどころか、優秀な情報屋コンビに感心する。


 ペコペコペコ、と腕の中で卯月が何かをアピールした。


「うん、そうだね卯月。情報提供は結局できなくなっちゃったけど、もっと別のところで協力すればいいもんね。荷物まとめて唐梅くんたちのところに行こ」


 立ち上がろうとして、さきに砂漠蔵が席を立った。蜜月は急いで隠れる。


 そのまま立ち去ろうとする砂漠蔵に、詫無が声をかける。 


「おまえはどうするんだ、砂漠蔵」


 ふり向かず、金髪を風に揺らし、つぶやくように砂漠蔵は答えた。


「……あいつを攻撃していいのは、私だけ」


 雪にも見える、白いフィールド。その中を静かに歩き、砂漠蔵はテラスから消えていく。残った完データも解散し、テラスは無垢な空間へと戻っていった。






 完データが住む大型のシェアハウスに戻る。いつの間にかさきまわりしていたドットレッドが、キッチンでひじをつき、砂漠蔵に唐突に話をふってきた。


「ねえ、いい情報があるのよ。買わない? ――男に関する情報」


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