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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第6章 被験者組と脱落者組 それぞれの思惑
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本当の自分を知る女性 蜜月と卯月の加入

 一石どころではない、巨大な隕石だ。ドッカーンと唐梅の心臓を割るような。


「私、聞いたもん。最初の実験のとき、ホウライさんの説明があったでしょ? そのときに唐梅くん

――…」


「ひいいいいっ!!」


 蜜月の口を押さえた。両腕で力いっぱい締め上げ、廊下に連れだそうとする。蜜月も半端じゃなく抵抗してきて、仲間の視線をものともせず二人は暴れまわった。


 どったんばったんと攻防をくり広げたあと、なんとかして廊下に引きずりだすことに成功する。床にうずくまり、身体的にも精神的にも息を整えていると、


「唐梅くん、なんで隠すの? 誰かを救うヒーローになりにきたんでしょ?」


 と蜜月が単刀直入に聞いてきた。顔が熱くなる。


 最初の実験で、ホウライのアナウンスに確かに自分は聞き返した。それを蜜月に聞かれていたなんて。思いもしなかった。


「隠すようなことじゃないのに。私、思ったよ。こんな真面目で、いい子がいるんだって。実験に参加して、誰か他の人を救けようって思ってたんでしょ? それってすごいよ。どうしてみんなに話さないの?」


「……」


 話せるわけがない。自分は今、悪属性のふりをしているのだ。ふり、というのは半分間違っていて、すでに完全に悪だと思っているが、とにかく言えない。蜜月は純真無垢な目で覗きこんでくる。


 彼女はいい人だ。ただ……僕の当初の、本当の動機を知っている。それに関してはまずいとしか言いようがない。


 現実世界での僕を知っているものは、今のところ砂漠蔵と彼女の二人。この二人からグッドディードに漏れることがないようにしなくては……。


 顔を上げ、情報パネルを出す。まずはこの状況を切り抜けよう。パネルを操作する。


 ピロン、と軽快な音がして、蜜月の情報パネルが開く。突然開いたパネルに驚き、蜜月は画面を確認した。


「えっ。もしかして、これってポイント?」


「はい。耐久戦のとき、蜜月さんから事前にヒントをいただいていたおかげで、ピンチを乗りきることができたので……お礼に受けとってください」


 ポイントをプレゼントし、なんとか話を変えることができた。蜜月はこちらの不純な動機には気づかず、善人らしく躊躇している。


「いいの? でも、悪いなあ。だって、こんなに……」


「多めにお渡ししたんです。交渉のために」


「交渉?」


「よかったら、うちの協定に入っていただけないかと思いまして。えっと、完データ……の方がいると、我々としても情報を集めやすいというか……」


 合点がいったように、蜜月の顔がパッと明るくなった。


「あっ、そうだね。利害関係? ってやつ。それでなくても、私たち一応現実世界で知り合った仲だし!」


 蜜月にすかさず握手を求められる。こちらもすかさず応じた。ペコペコ言っている卯月にも握手する。


「ちょこっとだけど、私年上だし、なんでも相談してね! 唐梅くん。私も協定に入る以上は、役に立てるようがんばるから!」


 明るい蜜月に笑い返す。仲間が増えた。それも脱落者組の仲間が。


 悪属性じゃない相手は、救う対象だ。だが、仲間でないとグッディは救けない。余裕があれば見逃すが、それも手を出さないという程度のものだ。蜜月が階段でフォーゼに追いつめられたときの反応を見るかぎり、間違いなく仲間じゃない他人は見殺すだろう。


 グッディを使い誰かを守ろうとするなら、仲間に引き入れることは絶対条件であり、最低限満たしておかなければならない項目になる。だから、蜜月があっさりと加入してくれてほっとした。


 ただ、中には詫無のように意地でも応じないものも出てくるだろう。そのときは……。


 つきない問題をひとまずのみこんで、蜜月との会話を再開する。


「えっと、脱落者組の部屋に帰られますか?」


「あ、うん。今回は帰ろうかな。別にどこで待機してもいいんだけどね」


「じゃあもしここにいらっしゃるようなら、どうぞ好きな部屋を使ってください。それで……さっそくなんですが、いくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか」


 頃合いをはかり、陽子との話し合いによって中断された話を蜜月に再度持ちかける。次はいつ会えるかわからない。蜜月が帰ってしまう前に、ここでしっかりと全容を確認しておきたい。


「サイバーセカンドに言われたひどいこと、についてなんですが、何度でも再生してやる代わりに僕たちを攻撃して回復薬を使わせろ……と言われたんですよね?」


 こちらの確認に、蜜月は顔を曇らせた。


「……ううん、違うの」


「えっ。……違うん、ですか」


 予想外の言葉に戸惑う。蜜月はぽつりと続けた。


「私が言われたのは、もっと別のひどいこと」


「……」


 あのとき蜜月が伝えようとしたのは、耐久戦のことではなかった? てっきり、サイバーセカンドに裏取引を持ちかけられたことを教えようとしてくれたのだと思っていた。


 蜜月の情報パネルが鳴る。時間を報せるアラームだ。


「ごめん、帰らなきゃ。完データの方でも話し合いがあるの。遅れちゃうから行くね。詳しいことはまた今度!」


 かろうじて手をふり、蜜月と別れた。廊下に一人残され、考えこむ。


 サイバーセカンドは、まだ何か隠している。気になる点、わかっていないことは多々ある。半データ、完データという名称。その意味。回復薬の謎。誰かを守る、というこれまでのものとは異彩を放つクエストI……。


 眼鏡を直し、部屋のドアノブに手をかけた。尽きない問題がまた一つ増え、ずんと重たい頭をドアにこすりつける。


 唐梅は少しの間冷たい廊下にたたずむと、無言で自分の部屋に戻っていった。






「――はい、それじゃあ脱落者会議を始めましょう~!」


 脱落者たちが集うテラス。陽気に声をあげたのはドットレッドだった。


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