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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第6章 被験者組と脱落者組 それぞれの思惑
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どうして殺したの? 陽子の反論②

 緊張した空気が部屋を満たす。くく、とグッディだけがのんきに笑っていた。


「被験者まで殺すとは思ってなかった。最初の実験の噂は、きっと何かの事故だと思ってたし……今も、信じてるよ。ハイラントたちのこと殺さなかったしね」


 誰かが突っこんでくるだろうとは思っていた。むしろ、今日まで何も言われなかったのが不思議なくらいだ。ただ、陽子が言ってくるとは予想していなかった。


「……唐梅くん。グッディの魔術があったら、いくらでもやりようがあったんじゃないかな。ハイラントのときみたいに、殺さずに済ますことができ――……」


「できません」


「……」


 唐梅の即答に陽子が詰まる。唐梅は唐梅で、どう説明すればいいものかと考えていた。


 まぐれだ。グッドディードがハイラントを逃がし、蜜月を殺さなかったこの二つのパターンはどちらもまぐれに過ぎない。陽子が見たのは、偶然のパターンでしかないのだ。


 蜜月に関しては、こちらを攻撃してくるものだけという悪属性の定義について話しておいたし、もしかしたらという希望はあった。だが、今回指示せずともグッディが蜜月を手にかけなかったのは、NPCを攻撃した後で余裕があったからだ。


 余裕がなければ、仲間ですら攻撃の対象になる。殺さずに済ますことが本当にできるだろうか。あの殺害衝動を前にして。


「これってこんなグチグチ言うこと? やつら生きてんじゃん」


 紅白が口を挟む。仲間の数人が同意するようにうなずいた。


「あの時点ではまだ、もう一度生き返ってくるかなんてわからなかったでしょ」


 陽子がまっとうな指摘をする。そう思うのはもっともだ。陽子の疑念に答えようと説明する。


「あれは耐久戦でした。僕は最初、僕たち被験者が死ぬまで耐久……の方かもと考えていました。しかし、それにしては用意された敵が……言ってしまうなら、これまでの実験で負けた弱いNPCと被験者たちでした」


「確かにそうだね~もっと強い敵出てくると思ってたのに。まあ面食らったっちゃ面食らったけど。でもそんな弱い敵じゃ、いつまで経ってもこっち死なないよね」


 と紅白が同意する。唐梅もうなずく。


「実際戦ってみても、強いとは言えませんでした。……ここで初めて、時間制限式の方である可能性を考えました」


 陽子は黙って聞き入っている。聞いてくれている今のうちにと全て説明してしまう。


「サイバーセカンドは死体を欲しがっているように見える一方で、この回復薬も使わせたがった。耐久戦の目的が回復薬を使わせることだと推測した場合……僕たち被験者を殺してしまってはならない。死んでしまったら薬を使えません」


 ログインボーナスで回復薬を大量に出し、実験の最中も買え、使わせろと連呼していた。サイバーセカンドはやはり遊んでなどいなかった。腐っても研究機関なのだ。


「回復薬を使わせるには、僕たちを殺してしまうほどには強くなく、かつ耐久戦で……時間制限いっぱい戦える敵が必要になります。強くはないが、特殊なステータス――つまり、死んでもいくらでも再生する能力を持った敵。一度再生に成功したサイバーセカンド……ホウライなら、二度目以降の再生も当然可能と踏んで攻撃しました」


 そこまで言って、陽子が口を挟もうと動いた。反論させまいと急いで被せる。


「その上で、彼らが本当にもう一度再生できるのかを確かめるために、砂漠蔵に確認をとりました。また会えるか――と。あれは……現実世界で僕たちがよくしていた挨拶、みたいなもので」


 明日もくるだろう、学校。あんたがいるなら、砂漠も歩くよ。


 これは昔――砂漠蔵とまだ、元気に”じゃれ合い”をしていた頃のやりとりだ。サボったりせずちゃんと登校してくるか確認したとき、砂漠蔵は決まってこう返してきた。


 唐梅がいるなら、そこが砂漠だろうと歩いていく。会いに行く。砂漠蔵はそう言ったのだ。


「スタッドくんに何か支払ったか聞いてたよね。あれは?」


「サイバーセカンドが被験者の再生をタダでやるはずがありません。でも、スタッドは何も支払っていないと言った。ポイントや金を支払ったのではなく、代わりにこの耐久戦に参加するという取引をしたのだと……確信を得るために聞きました」


 全て説明し終えて、陽子を見る。腕を組み、少し考えると、陽子は長い息を吐いた。


「……うん、そっか。ごめんね。私も……自分の考えが甘い考えなのはわかってるの。……でも、その推測が当たってなかったらって思うと……やっぱり、危険な判断だったと思う」


「じゃあ陽子さん、抜ける~?」


 紅白がさらっと残酷なことを言う。いくら協定のやり方に不満があっても、NPCのいない陽子がここを抜けることはほとんど死を意味する。だが、陽子は動じなかった。


「私は……NPCの蘇生アイテムが販売されて、自分のNPCが戻ってきたら――ここを抜けると思う。たとえ一人になっても」


「……!」


 唐梅の瞳孔がわずかに開く。興味なさそうに聞いていたグッディが、陽子の発言にちらりと目をやる。


「最初にこの協定に参加しておいて、申しわけないけど」


 静まり返る部屋。仲間の数人が、窺うように唐梅の反応を待っている。唐梅かグッディのどちらかがブチ切れるのではないかと思っているのだ。


 しかし、協定のリーダーは謝罪する陽子に穏やかに笑いかけた。


「いいんです、陽子さん。あなたの意見はこの中でもっとも正しいものです。誰が何と言おうと、自信を持ってください。NPCが復活したあかつきには、いつでも好きなように行動してくださって構いません。皆さんも。今後もこの協定はこちらを攻撃してくるものを悪属性と判断し、倒します。その方針に納得できる方だけ残ってください」


 はきはきと言う唐梅に、陽子たちは意外そうにしている。


 さっきまで、どちらかといえばむすっとしていた唐梅が急に生気をとり戻して、グッディは変に感じた。まあ演技なのかもしれないが、と思い直す。


 機嫌よく対応する唐梅だったが、そこに蜜月が思わぬ一石を投じた。


「陽子さん、待って。唐梅くんは悪い子なんかじゃないよ。だって唐梅くんは、誰かを救うためにここに来たんだから!」


「――ッ!?」


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