どうして殺したの? 陽子の反論①
風呂に入っている間に、蜜月を中心に協定の仲間たちが部屋へ集まっていた。多少広いとはいえ、仲間全員が集まるとさすがにすし詰め状態になってしまっている。
「やっほ~! ほれほれ、グッディ。元気か、この~っ」
「ひいっ! み、蜜月さん……!!」
思わず悲鳴が出る。蜜月がグッディの体をぺしぺしと叩いている。突然のスキンシップに、殺人鬼はじいっと蜜月を見つめ、どう反応してやろうかという顔だ。
なぜそこまでフレンドリーにできるのか、殺人鬼に。と思ったが、よくよく考えればグッディは蜜月には一度も攻撃していない。最初の実験で蜜月を死に追いやったのはスタッドだ。
蜜月にとってグッドディードはこわい対象ではないのか。それはそれで大いにまずい、と焦る。
「ど、どうも蜜月さん。またお会いできて嬉しいです。そちらもあれからご無事でしたか」
ぺしぺしやっている蜜月の手を引っぱり、強引に握手する。殺人鬼が機嫌を悪くしていないか、それだけが気がかりだ。
「うん、私は元気元気! 卯月もね」
蜜月に抱かれているウサギがこちらに腕を振る。動く度、ペコペコと変わった鳴き声を出している。みつきとうづきか、とほほえましそうに好削がつぶやく。
挨拶を済ませると、唐梅は数多くの気がかりな点を聞こうと蜜月に切りだした。
「蜜月さん、さっそくで申しわけないのですが、いくつか聞きたいことが……」
「――その前に。唐梅くん、ちょっといい?」
陽子に遮られ、振り返る。はっとするようなとても真剣な表情だ。
蜜月には聞きたいことが山ほどある。しかし、陽子の普段とは違う態度にそれどころではないと判断する。
「この間の耐久戦のことで、説明してほしいことがあるの。昨日の説明じゃわからなかったこと」
「あっ、僕も聞きた~い。唐梅くん、時間制限式だってよくわかったよね。不死身のステータスのことも。あれって何で? どこで気づいたの~?」
陽子のピンと張りつめた空気を押しのけて、紅白が手をあげる。そこに蜜月が続く。
「私も聞きたい! おかげで唐梅くんたち、一回も回復薬使わずに済んでたよね。他の被験者グループは回復薬を大量に使うことになって、かなり苦労したらしいよ」
サイバーセカンドの思惑通りか。蜜月の情報に顔をしかめる。何度でも生き返る脱落者相手に、うろたえる他の被験者たちの様子が目に浮かぶ。そこで好削がひょいと片眉を上げた。
「他の被験者と話したのか? 他にはどんなことを言っていた」
「あ、ううん。これ以上はわからないの。ドットレッドに売ってもらえたのはここまでだから」
「ドットレッド?」
聞き覚えのない名前に、唐梅を始め仲間たちが反応する。
「情報屋だよ! 私たちと同じ脱落者だけどね。ドットレッドのNPCが情報を集めるのにすごく向いてるの。だから情報を売ってポイントを稼いでるんだよ」
そんな方法でポイントを集めているものがいるのか。驚き、素直に関心してしまう。金儲けなど、そういったことにはまるでうとい唐梅には到底思いつかない方法だ。現にポイントの多くを仲間に分けてしまっている。
「ごめん、みんな。私が聞きたいのはそういうことじゃないの」
キンと冷えた声が部屋に響く。皆、その声の方に振り向く。普段温厚な陽子が、強いまなざしで唐梅を見ていた。自分をまっすぐ捉える強固な視線に、既視感を覚える。
どこかで見た目だ。そう、あの日画面の向こうで誰かを救えると言った、強い目。同じ目が今、自分を見ている。
「――唐梅くん。どうして脱落者の人たちを殺したの」




