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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第5章 血ぬられた善行
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詫無の提案②

 ええっ、と仲間達が声をあげる。


 提案にのらないと言って間もなく、ころっと意見を変えた唐梅に動揺し、遠慮なく騒ぎ立てた。ちょっと待て、どういうことだと声が飛んでくるのを無視する。


「僕達二人があなた方と戦います。それでよろしいですね」


「戦う? さし出せ、の意味をわかってねえな。抵抗せずに大人しく殺されろ、って言ってんだよ。紅白曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の言う通り、普通にグッドディードに攻撃されちゃあ面倒なんでな」


 詫無(わびなし)が冷淡に返す。やはり、そうか。ダメ元で言ってはみたが、彼らはまともに戦う気はないようだ。


 大人しく殺されろ。本来ならありがたい申し出だ。しかし……。


「要求通りさし出したところで、僕はまだしも……グッドディードをあなた方が倒せるとは思いません。すでに一度負けていらっしゃる」


「グッドディードに言うことを聞かせるんだ。大人しく殺されろ、ってな。命令しろ」


 詫無の言葉を受けて、後ろのグッディを一瞥する。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。


「……まさか、本当に大人しくしろなんて言いませんよね、ご主人様。私達の企みのために仲間を守るとは言いましたが、それに黙って殺されることは入っていませんよ」


 グッディがささやく。言われなくともわかっている。グッドディードは大人しくなどしない。


 仲間を守ると言い、砂漠蔵を一旦は放したところを見るに、改善の兆候は見られる。だが、「殺すな」と「殺されろ」。この二つばかりは、特に後者は絶対に聞かないだろう。


「一見、こちらに何の利益もない提案だ。交渉したいなら、利益を提示しろ。交渉の基本だろう」


 唐梅の代わりに、好削(すざく)が詫無に言い返す。


「この提案をのめば、お前らは最小限の被害で済む」


 詫無の返答に、好削と限武(げんぶ)がひょいと片眉を上げた。妙に自信のある詫無の態度に、唐梅も疑念を抱く。


 グッドディードを前に、本気で言っているのか。はったりの可能性もあるが、狙いが掴めない。


 あるいは、彼らの持つアイテムや武器が相当なレアリティなのか。ログインボーナスでレアリティ百のNPCを引っくり返せるとは到底思えないが……。


 三人が返答に困っている隙をついて、詫無が唐梅の仲間達に声をかける。


「何なら、そいつら二人が死んだ後こっちの協定に入るか? 殺人鬼が仕切ってる協定よりよっぽど安全で確かだぜ」


 それはそうだな、と仲間を勧誘されたにも関わらず、内心でうなずいた。協定のリーダーがもっとも自分の協定をこころよく思っていないのだ。が、仲間達は詫無のさらなる提案に反応する様子はない。唐梅は詫無に切り返す。


「……では、こちらからも交渉させていただきます。我々の協定に入りませんか。ご存知とは思いますが、レアリティ百のNPCに守ってもらえるという協定です。今入っていただけるなら、ログインボーナスの提供は免除します。いかがですか」


 まるで通信販売の手口だな、と我ながら苦笑する。うさんくさいことこの上ない。


「ええ……それじゃ殺せないじゃないですか……」


 後ろで殺害衝動に悩む大男がぼそりとつぶやいた。さらに後方から、スタッドの鋭い指摘が飛んでくる。


「守ってもらえる? どの口でほざいてんだ、てめえは。そのレアリティ百に殺されてんだよ俺達は。口を溶接されてえか」


「……おっしゃる通りです。僕自身、よりによってこの口で……と思います。ですが……そちらにとって、利益のある交渉です。――被害が最小限で済みます」


 詫無を見すえる。詫無もこちらを見た後、いつかと同じ仕草で首を振って拒否した。


 砂漠蔵(さばくら)の方も確認するが、制服のポケットに両手を突っ込み、じっと下を見て動かない。他の脱落者達も同様だ。


「……詫無さん。一つ、お伺いしたいんですが、あなたのNPCのレアリティはいくつですか」


 唐突に質問を投げられ、詫無がにらんでくる。あからさまに嫌そうだが、少し考えた後で、問いに応じた。


「……四十五」


 回答に頷くと、他の脱落者を見回し、再度問う。


「他に、レアリティ四十五以上のNPCはいますか」


「……」


 誰一人、口を開くものはいない。後ろで私、私とグッディが自分を指さしている以外は。


 ビル内が静寂に包まれた。脱落者達の中で、詫無のレアリティ四十五の大トカゲがもっとも強いNPCだということか。息を吸い、冷たい声ではっきりと告げる。


「なら、グッドディードには勝てません。これまでのこと、いくらでも恨んでいただいて結構です。でも……僕達に復讐するのは、グッドディードよりも確実に強いNPCを仲間に引き入れた後にしていただけますか。でなければ……同じ惨劇を繰り返すだけです。あなた方と、できるだけ戦いたくありません。それでもこちらを攻撃するというのなら……」


 右手を振る。脱落者達が警戒し構えるが、手に持つ血桜を鞘に収めると、唐梅は端的に呟いた。


「NPCを倒させていただきます」


「ま、聞かねえよな。交渉決裂だ。――行け!」


 詫無が背後のNPCに指示を出す。NPCの群れが脱落者達を飛びこえ、一気にこちらめがけて襲いかかった。


 顔の横を風が切る。NPC達を牽制するように、バッとグッディが腕を前に突き出した。グッディを中心に、巨大な長方形の魔法陣が展開する。赤く発光し、複雑な模様から閃光の槍が無数飛び出す。


 ――ドドドドドッ!!


 槍が的中し、NPC達が空中で串刺しになる。唐梅の顔に血しぶきが散る。槍の衝撃で浮き、重いものから順に床へと落ちていく。ビルが振動に揺れ、白の空間に赤い死骸が転がる。


 生きているNPCはいない。グッディの放った槍が、脱落者のNPCを一度で全て葬った。


 これで、彼らの自信を砕けただろうか。顔の血をあえてそのままにして、詫無達の反応を見る。


 彼らに動揺は見られない。それどころか、自分達のNPCの亡骸を前に、落ち着いているようにさえ感じられる。唐梅は顔色を変えた。やはり、何かある。そう眉をひそめていると、


「よし、出せ」


 と詫無が無感情に呟く。脱落者達がわらわらと移動し、奥から別の被験者が現れた。予想外の状況に、再び青ざめる。


「あーっ!! みんな! どこ行ってたの!? おかえり~っ!」


「見てわかんねえのか、紅白。ありゃ帰ってきたんじゃなくて、捕まってんだよ」


 限武の言う通りだ。目の前の光景に、唐梅はNPCを倒していながら事態が全く好転していないことを理解する。むしろ、逆転したとさえ言っていい。


「……さて、交渉二段階目だ。駆け引きには段階を用意しておくもんだよな。交渉の基本だろ」


 詫無が目を細めて言う。その隣に、バラバラに移行されて行方がわからなかった仲間達が並んだ。彼らを探しに行ったNPC達も一緒だ。


 再会でき、喜びの感情があふれ出る。彼らが鎖で拘束されていなければ、もっと喜べただろう。


「もう一度言うぞ。唐梅とグッドディードをさし出せ。無抵抗で殺されるんだ。そうすれば、仲間は返してやる」


 脱落者達に挟まれ、人質にとられた仲間が申し訳なさそうに俯いている。彼らに声をかけようと口を開く。詫無がすかさず動いた。


「おっと。お前ら、もっと人質にぴったりくっつけ。グッドディードがまとめて串刺しにしてくれんだからよ。そうだろ、唐梅。全体攻撃を指示しろよ。それでまた皆殺しにすりゃあいい。……お仲間もろとも、な」


 無情な言葉に、吐き気をもよおす。一方で、追い込まれて口を結ぶ主人の背後、殺人鬼は期待に胸を弾ませ、残酷に笑った。


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