詫無の提案①
「唐梅くん! 聞いちゃダメ! この人達は――……」
スタッドに口を押さえられ、蜜月の言葉が遮られる。
「詫無っつったか。第三の実験で死んだってえ? それを信じるなら、お前が恨むべきはそん時自分を殺した相手だろうに。他のやつだってそうだろ。俺がぶっ殺したやつも来てるようだが、唐梅とグッドディードだけ渡して、それで本当に満足するのかねえ」
「私なら逃がさんな。全員殺す」
詫無の提案に限武が答え、好削が続いた。蜜月に止められるまでもなく、詫無の言うことは信用ならない。詫無が二人をにらむ。
「俺が死んだのは、グッドディードにNPCを殺されたからだ。NPCがいなきゃ、まともに戦えもしねえ。大元を恨むのは当たり前だろ。だが、何もこいつらコンビを狙うのはそれだけじゃない。――クエストEが追加されたからな」
早速きたか、と唸る。クエストの追加がもう嫌な効果を生んでいる。どんなに早くても、クエストEに悩まされるのは次の実験からだろうと踏んでいたが、甘い考えだった。
「大量に殺してるお前らコンビが、一番ポイントを持ってるはずだ。優勝するっつってたもんなあ、唐梅。全員と戦う必要はない、ポイントを多く持ってるやつをピンポイントで殺す方が効率がいいだろ。個人個人の恨みをここで晴らすよりも、この耐久戦に勝ってポイントを手に入れることを優先する。そう話し合って集まったんだよ、俺達は。いわば脱落者協定、だな」
詫無を筆頭とした脱落者らが、すわった目で自分達を見ている。まとまった強い意志を感じる。ポイントを多く持っているものとだけ戦い、有象無象の相手はしない。冷静な戦略だ。
第ニの実験でも、レイド戦だと言って他の被験者を誘導した詫無に追い込まれた。リーダー気どりとスタッドは言ったが、気どっているのではなく詫無には人を動かす資質が実際にあるのだろう。厄介な相手だ。
「な~にが効率だっつーの~。僕達全員を相手にしたら、また負けちゃうからでしょ~。普通に戦っても勝てるのに、そんな交渉なんか聞くわけないじゃん。それとも、引き受けたら何かくれるわけ?」
紅白の指摘に、詫無がふんと鼻を鳴らした。まっとうな指摘をされたというのに、妙に余裕のある反応に見え、違和感を覚える。
脱落者達を注意深く観察していく。腰や足にベルトを巻いている。手に持つ武器の他に、ベルトに小道具らしきものを装備していることに気がつく。
彼らが、それぞれにいつから再生していたのかは定かでないが、脱落者達にもログインボーナスがあり、脱落者用の部屋でゆっくりと準備してきたのではないか。
これまでの実験と違って、今は回復薬もある。サイバーセカンドの研究により生き返った彼らは、サイバーセカンドのつくった回復薬を疑ったりはしないだろう。
回復薬が使えることで恐怖心が薄れているのか、あるいは、何か秘策があるのか。その両方か。
「……少し、仲間と相談させて下さい」
唐梅の返事に仲間達が驚く。詫無が肩をすくめ、腕を組んで視線を外す。待ってくれるようなので仲間の方を振り向くと、陽子が寄ってきて小声で話しかけてくる。
「唐梅くん、まさか提案にのるの? この提案、私達に一切利益ないよね。……それに、あの詫無って人すごく冷酷よ。私のNPCを倒した後、私にも普通に攻撃してきたし……約束なんていくらでも破りそう。まあ、本当に本物ならの話だけど……」
「提案にはのりません。ただ、あの人達は本物だと思います。詫無さん……は確かに善良とは言えない性格ですが、残忍な反面、死体に向かって謝るなと言うような人です。変な誠実さがあるというか……。さっきの、第三の実験で自分は死んだという情報……別に黙っておいてもいい情報です。いつ死んだのかと聞かれたわけでもない。協定に参加せず……その直後に死んだこと、普通ならあまり言いたくないと思います。わざわざ言った感じが……本物らしい」
「それだけじゃ弱い。データならいざ知らず、本物の場合は人間だ。慎重に対応する必要がある。本物だと断定するなら、もっと根拠の強いものを」
好削がぴしゃりと告げた。唐梅は砂漠蔵のことを話す。
「先ほど攻撃してきた子……砂漠蔵と言うんですが、現実世界での知り合いなんです」
ほうほう、と限武が砂漠蔵の方を興味深そうに見る。好削も目を向けた。
「諸事情あって、僕には攻撃的なんですが……それ以外の、普通の子には優しいというか、弱いというか……。蜜月さんに対する態度が、まさに砂漠蔵そのものでした。砂漠蔵のこういった細かい性格まで、映像やデータで再現できるとは思えません。現実世界で砂漠蔵と一緒に過ごした人間でなければわからない機微です。サイバーセカンドにわかるはずがない」
好削が頷く。
「わかった。お前の情報を信じよう。死人が生き返るなんて、到底信じがたいが……ここは電脳世界だからな。常識は一度捨て置く。……で、やつらを本物と仮定し、提案にものるつもりがないようだが、それはつまり戦うということでいいんだな」
「はい。戦います。……僕達二人だけで」
仲間が顔を見合わせる。後ろでグッディがくくっと笑う。
まだ何か言いたげな仲間に背を向け、グッディと二人、前に出る。退屈そうにしてはいるが、ちゃんと待ってくれている詫無達に向かい合う。
「……お待たせしました。僕達二人をさし出せとのことですが……提案にのります」




