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血ぬられグッドディード -Blood Good deed-  作者: 瀧寺りゅう
第5章 血ぬられた善行
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愚かな崇拝者どもを守ります

 すぐ後ろに立つグッディが、コートの懐から見覚えのあるものをとり出した。蓋を開け、ペットボトルに入った青い液体をぐいっと煽る。


「……うわあああ!! こら!! グッディ! 何をやって……ひいっ! 君ときたら、こんなに飲んで……!」


 回復薬を奪う。部屋に置いてきた今日のログインボーナスではないか。数リットルはある回復薬の、三分の一ほどがなくなっている。呆れた。


「何ですか、ご主人様。いちいちうるさいですね。床に置きっぱなしだったからいらないんだと思って、私が貰ってあげたんですよ」


「回復薬をジュース代わりにするんじゃない! 話を聞いていないのか! 極力使わないようにと言っているだろう、それは君達NPCも同じだ。君に何かあったら……!」


 いや、むしろその方がいいのか。最後まで言いかけて、口をつぐむ。


 仲間達は優秀だ。回復薬を飲み漁った結果グッディに何かが起こり、仮に僕達二人が死んだとしても、うまくやっていくだろう。ハイラント達と戦った時も、しっかり応戦していた。何より、こんな危険な殺人鬼はいない方がいい。


「別に飲んだって何の問題もありませんよ。ご主人様は警戒しすぎです」


「……問題ない、という確証があるのかい。君は回復薬のことについて、何か知っているのか。回復薬や……サイバーセカンドのことについて、知っていることがあるなら教えてくれないかな」


「知りません。回復薬も、今回の耐久戦とやらも。私達NPCには何も教えられていません。サイバーセカンドから言われたことといえばせいぜい、自分の主人に会ったら”サイバーセカンドにようこそ”と言うように、と……これくらいのものです」


 NPC達のサイバーセカンドに関する知識は、被験者と変わりないのか。グッディからは情報を得られないとわかり、がっかりする反面、ほっとする部分もある。


 これまで、NPCは僕達被験者側と捉えていいのか、それともサイバーセカンド側と見るべきなのか、判断しかねていた。主人を懸命に守るNPCもいれば、グッディのように知性があり、主人に対し反抗的なNPCもいる。


 サイバーセカンドからの指示はないというグッディの言葉を信じるなら、NPC達はそれぞれ「設定」にちなんだ独立した考えを持っていると見ていいだろう。


 つまり、主人である被験者に協力するか、しないかは個々のNPCによるということだ。グッディの場合は……果たして、どちらだろうか。


「……単刀直入に聞くよ、グッディ。君をつくったのは、サイバーセカンドだ。いわば、君の生みの親だね。そのサイバーセカンドの指示と、僕の指示だったら……どっちを優先するかな」


 グッディがじっとこちらを見下ろした。何とも言えない微笑を浮かべ、静かに耳をかたむけている。


「この先……サイバーセカンドのことについて、調べることがあると思う。そうなった時、グッディ……君はどっちの」


「相棒の味方」


 遮られて、はっとする。グッディの表情を窺う。心なしか、普段より落ち着いた笑みをしているように見える。


 グッディが唐梅の持つペットボトルをとった。逆さにする。バシャバシャと中身が屋上の床に流れていく。


「こんなもの、別に必要ありません。飲み物にすることはあっても、使うことはありません」


「だから、飲み物にもするなと……」


「私が守ります」


「……。……今……、……なん…て……」


 べこん、とペットボトルを潰すと、ビルの下へ捨てた。グッディが投げたペットボトルが落ちていくのを、ぼんやりと眺める。


「……それは、僕のことだけかい」


 グッディに問う。たとえ殺しができなくとも、それ以上に守ることや救うことを嫌った、悪属性の相棒。


「あなたと、私達につき従う悪属性の仲間達……愚かな崇拝者どもを、守ります」


 唐梅は表情を変えない。体の内側から溢れる感情を、押し殺す。


 どれだけ歪んだ思惑からきたものであろうと、グッドディードの口からはっきりと、聞くことができた。仲間を守る、という言葉。


 鼻筋や、目の端に熱を感じる。眼鏡を直すふりをして、そっと押さえた。


「……、……今後の方針を伝える。君は、僕達に危害を加えようとするNPCを、僕は被験者を相手にする。仲間を守り、信用させ、僕達の活動を正義だと思い込ませるんだ。決して騙していることを悟られてはならないよ。いいね」


 ニタニタと、グッディが普段の笑みを見せ始めた。グッディは仲間を騙している気でいるが、実際に騙しているのは僕だ。僕がグッディを騙している。


 それを決して、悟られてはならない。苦労が報われて感動している場合ではないのだ。気を引きしめる。


「……じゃあ、仲間のところに戻る前に、グッディ。君の使える魔術について確認を……」


「唐梅くん!!」


 聞き覚えのある声が、屋上の入り口から聞こえる。仲間の誰かが自分達を探し、呼びに来たのか。何かあったに違いないと、顔をそちらに向ける。


「どうしまし……、……!?」


 入り口にいる人影に、固まる。とっさに、血桜に手を伸ばす。信じがたいものを前にして、混乱しそうになる頭を振る。


 夢、ではない。冷静に考えるなら、サイバーセカンドの罠か。


 警戒する唐梅に、人影が数歩近づいた。腕にウサギを抱えて、真剣な表情で訴える。


「私、蜜月(みつき)だよ! 覚えてる? ……って、名前知らないよね。自己紹介とか、してなかったし……。蜜月って言うの。蜜月(みつげつ)って書いて、みつき」


 肩まである黒髪に、ピンクの眼鏡。腕には、桃色のパッチワークを施したウサギ型のNPC。


 被験者募集会場で、隣にいた女性だ。……死んだはずの。


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